「映画大好きポンポさん」
2021年作品。いかにも若年層向けお手軽作品みたいな雰囲気とキャラクターデザインで、通常なら敬遠したくなるタイプのシャシンなのだが、映画作りを題材にしているということで敢えて観てみた。結果、驚いた。これはなかなかの快作だ。何より、送り手が映画製作の基本を的確に押さえている点が素晴らしい。特に、映画業界に少しでも興味のある向きは必見の作品かと思う。...
View Article「パリタクシー」
(原題:UNE BELLE COURSE/DRIVING MADELEINE)有り体に言えばこれはファンタジーに近い建付けなのだが、採り入れられたモチーフは妙に重苦しいテイストがある。しかもそれが“重さのための重さ”でしかなく、さほど普遍性を伴ってはいない。少なくとも、宣伝文句にあるような“笑って泣いて、意外すぎる感動作”であるとは、個人的には思えなかった。...
View Articleミュシャ展に行ってきた。
4月8日から福岡市中央区大濠公園の福岡市美術館で開催されているミュシャ展に行ってきた。アール・ヌーヴォーの代表的な画家として知られるアルフォンス・ミュシャの作品を集めたもので、チェコ在住でミュシャ本人とも交流があったズデニェク・チマル博士のコレクションが主に展示されていた。...
View Article「レッド・ロケット」
(原題:RED ROCKET)ショーン・ベイカー監督の前作「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」(2017年)よりも質的に落ちる。もっとも「フロリダ~」は全編の大半が盛り上がりに欠ける展開だったのだが、怒濤の終盤にはそれまで凡庸だった作品自体の価値を押し上げるインパクトがあった。対して本作にはそのような仕掛けは無く、平板な画面が延々と続くだけだ。...
View Article「あの頃輝いていたけれど」
(原題:I USED TO BE FAMOUS )2022年9月よりNetflixより配信。かつての人気ミュージシャンの挫折と再生を描いたシャシンで、題材は興味深く肌触りも悪くないのだが、いまひとつ盛り上がらない。モチーフが多い割に作劇に説明不足の感があり、詳細が描ききらないまま終わったような印象を受ける。上映時間をあと20分ほど延ばしても良いので、ドラマにもっと奥行きを付与して欲しかった。...
View Article「世界の終わりから」
かなりの怪作だ。ハリウッドの「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(通称:エブエブ)に匹敵する、カルト映画の最右翼として位置付けられるだろう、もちろん「エブエブ」同様、好き嫌いがハッキリと分かれる作品であり、特に一般的な善男善女の皆さんにとっては生理的に受け付けないシロモノなのかもしれない。だが個人的には気に入った。本年度の日本映画の中では見逃せない一本である。...
View Articleヘンリック・イプセン「野鴨」
ノルウェーの劇作家イプセンの作品は若い頃に「人形の家」を読んだだけだが、今回久々に手に取ってみたのが本書。1884年刊行の本作は、悲喜劇のジャンルで最初の現代の傑作と見なされているらしいが、実際目を通してみると実に含蓄の深い内容で感心した。主人公たちの思慮の浅さには呆れるしかないが、それは傍観者である読み手の立場だから言えること。このような図式は現代においても変わらず存在している。...
View Article「ヴィレッジ」
最後まで退屈することなく観ていられたが、藤井道人監督作品としては「デイアンドナイト」(2019年)と構図が似通っている。とはいえ“過去作をトレースしているからダメだ”とはならない。同じパターンの繰り返しでも、自家薬籠中の物としてうまく仕上げれば文句は無いのだ。それどころか、この題材は我々が向き合っている問題の実相を反映しており、何回採用しても構わない。...
View Article「アダマン号に乗って」
(原題:SUR L'ADAMANT )対象物にカメラを向け漫然と回しているだけのドキュメンタリー映画で、退屈な内容だ。いつ盛り上がるのかと待っている間にエンドマークが出てしまった。第73回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され大賞を獲得した映画ながら、今回もまた“主要アワードを受賞した作品が良い映画とは限らない”という“真実”を確認した次第である。...
View Article「ジョニー」
(原題:JOHNNY)2023年3月よりNetflixより配信。いわゆるターミナルケアの問題を宗教のモチーフを絡めて上手く描き、とても感銘を受けたポーランド映画だ。ただし、いささかストーリー展開が出来すぎという印象もある。ところが終盤でこの映画が実話を元にしているということが示され、本当に驚かされた。まさに事実は小説より奇なりという諺を地で行くような展開である。...
View Article「幻滅」
(原題:ILLUSIONS PERDUES )フランスの文豪オノレ・ド・バルザックの小説「幻滅 メディア戦記」(私は未読)の映画化だが、当時描かれた主題が現在でもそのまま通用するあたりが面白い。時代劇らしいエクステリアと風格も万全で、鑑賞後の満足度は高いと言える。2022年の第47回セザール賞で作品賞を含む7部門を獲得。第78回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門にも出品されている。...
View Article「デッドゾーン」
(原題:THE DEAD ZONE )83年作品。カナダの鬼才デイヴィッド・クローネンバーグ監督の出世作であり、スティーヴン・キングの小説の映画化作品の中でも出来の良い方に属するだろう(まあ、私は原作は未読なのだが ^^;)。取り上げられている主要モチーフは結構アップ・トゥ・デートなものであるし、何よりキャストの力演が光る。...
View Article「せかいのおきく」
題材はとても興味深いのだが、筋書きはどうもパッとしない。何やら作者はこのネタを取り上げることだけに傾注しているようで、観終わってみればボンヤリとした印象を受ける。最近はあまり作られなくなった時代劇なので幾分期待したのだが、やはり時代物だろうが現代劇だろうが、大事なのは脚本の精査なのだと、改めて思った次第。...
View Article「テラー・トレイン」
(原題:Terror Train)80年作品。第95回アカデミー賞にて「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のパフォーマンスが認められて助演女優賞を受賞したベテランのジェイミー・リー・カーティスが、若い頃に得意(?)としていたホラー物の一本。たぶん今見直すと古さは否めないが、彼女の頑張りもあって観た時はけっこう楽しんだのを覚えている。...
View Article「アルマゲドン・タイム ある日々の肖像」
(原題:ARMAGEDDON TIME )監督自身の少年時代の実体験をもとにしたシャシンとしては、先日観たスピルバーグの「フェイブルマンズ」よりはいくらかマシな出来だが、クォリティとしては及第点に達していない。観た後にすぐに忘れてしまうような内容だ。やはり自分史を題材にしてしまうと、意識的・無意識的に関わらず、作者にとって都合の良いような筋書きになりがちなのだろう。...
View Article「午前4時にパリの夜は明ける」
(原題:LES PASSAGERS DE LA NUIT)雰囲気や肌触りは良く、キャストも好演なのだが、いまひとつ物足りない。これはキャラクターの練り上げが足りないこと、そしてストーリーに力強さが無いことに尽きる。有り体に言えば、どうしてこの映画を作る必要があったのか分からない。テレビの連続ドラマならば大して問題は無いだろうが、スクリーンで対峙するには少々辛いものがある。...
View Article「都会のアリス」
(原題:ALICE IN DEN STADTEN)74年西ドイツ作品。日本公開は88年。ヴィム・ヴェンダース監督の初期作品で、以後「まわり道」(75年)「さすらい」(76年)と続く、同監督による“ロードムービー3部作”の第1作だ。90年代以降のヴェンダースは精彩が無いが、この映画を撮っていた時期は感性が研ぎ澄まされていたようで、映像表現やキャストの動かし方は並外れており、鑑賞後の満足度は高い。...
View Article「TAR ター」
(原題:TAR )これはとても評価出来ない。題材に対する精査や描くべきポイントの洗い出し、アプローチの方法、キャラクターの設定、そしてストーリー展開と、あらゆる点で問題が山積だ。第95回米アカデミー賞では作品、監督、脚本、主演女優ほか計6部門で候補になっていたが、いかなる事情で斯様に絶賛されたのか当方では分かりかねる。...
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