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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「レッド・ロケット」

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 (原題:RED ROCKET)ショーン・ベイカー監督の前作「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」(2017年)よりも質的に落ちる。もっとも「フロリダ~」は全編の大半が盛り上がりに欠ける展開だったのだが、怒濤の終盤にはそれまで凡庸だった作品自体の価値を押し上げるインパクトがあった。対して本作にはそのような仕掛けは無く、平板な画面が延々と続くだけだ。

 2016年、冴えない中年男マイキー・セイバーが故郷テキサス州の田舎町に帰ってくる。彼は元ポルノ男優で、かつて“業界のアカデミー賞に5回もノミネートされた(でも受賞は逃した)”と言われるほどの売れっ子だったらしい。しかし今は落ちぶれて、ほぼ一文無し。それでも別居中の妻レクシーと義母リルが住む家に転がり込むことに成功する。



 しかし、すぐにここから巻き返せるという根拠の無い楽観論とは裏腹に、彼がありつけるカタギの仕事など存在しない。仕方なく昔の知り合いを頼って、マリファナの売人をやりながら細々と暮らす毎日だ。あるとき、彼はドーナツ店でアルバイトの女子高生ストロベリーを一目見て“ポルノ女優として大成する可能性がある”と直感。早速彼女を口説いて家出をそそのかす。

 マイキーはストロベリーに“オレは遣り手の芸能関係者だ!”みたいなことを告げるのだが、いくら田舎でも、自分の車も持っていない小汚いオッサンが芸能界の顔役に成りすませるわけがない。彼はストロベリーに会うたびに、町内の金持ちの家の前で別れて金満家を装うのだが、こういう下手な小細工に引っ掛かる者なんていないだろう。

 ショーン・ベイカーの演出は冗長極まりなく、だらしない主人公を単にだらしなく撮っただけで、何の興趣も醸し出さない。もちろん、ダメな奴ばかり出てくる映画でも作り手の高い意識があれば面白く仕上がるのだが、本作にはそんな積極性は感じられない。これではイケナイと思ったのか、「フロリダ~」同様に終盤にはドタバタ騒ぎを挿入して盛り上げようとしているようだ。しかし、今回はそれが無理筋で完全に不発。それまでの経緯を放り投げたような失態しか見せられていない。

 そもそもこのネタは工夫もなく2時間10分も引っ張れるようなシロモノではないだろう。テキサス州という土地柄を活かしたような作劇も(茫洋とした風景を除けば)見当たらない。主演のサイモン・レックスは実際に過去にポルノ出演経験があるらしく、その“業界”に関して詳しいところも披露するのだが(苦笑)、如何せん愛嬌が無い。

 ブリー・エルロッドにブレンダ・ダイス、スザンナ・サンといった他のキャストも魅力に乏しい。なおこの映画はインディペンデント・スピリット・アワードをはじめとする映画賞をいくつか獲得し、第74回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門にも出品されているのだが、賞を貰った映画が必ずしも面白いとは限らないことを、今回も実感してしまった。

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