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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「デッドゾーン」

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 (原題:THE DEAD ZONE )83年作品。カナダの鬼才デイヴィッド・クローネンバーグ監督の出世作であり、スティーヴン・キングの小説の映画化作品の中でも出来の良い方に属するだろう(まあ、私は原作は未読なのだが ^^;)。取り上げられている主要モチーフは結構アップ・トゥ・デートなものであるし、何よりキャストの力演が光る。

 メイン州に住む高校教師のジョニー・スミスは、ある晩交通事故に遭い昏睡状態に陥る。目覚めたときは5年もの時間が経過しており、婚約者のサラは別の男と結婚して子供もいることを知り彼は落ち込むばかりだった。しかし、事故で脳に刺激を受けたことが切っ掛けになり、彼には他の人間に触れることによってその者の未来を透視するという超能力が備わってしまう。

 ジョニーの能力は周囲の者が知ることになり、テレビでも紹介され一躍脚光を浴びる。ある時、ジョニーは新進の地元政治家グレッグ・スティルソンと握手した際、スティルソンが将来大統領になり、核ミサイルの発射ボタンを平気で押すヴィジョンを透視してしまう。ジョニーは世界を救うべくスティルソンの暗殺を計画する。

 世界は今あちこちで火種を抱え、実際に紛争が起こっている。幸いにも現時点ではすぐさま核兵器の使用に走るような軽率な指導者は見当たらないようだが、強硬手段も辞さない輩がトップを取る可能性もゼロではなく、スティルソンみたいな人間が出てこないとも限らない。それだけに本作の後半の展開は迫真力がある。

 ジョニーに扮するのはクリストファー・ウォーケン。オスカーを得た「ディア・ハンター」(78年)からあまり年月が経っていない時期で、いわば彼が絶好調だった頃の作品である。5年もの“休眠期間”を送ることを余儀なくされ、しかも妙な能力を身に着けてしまい、世間からの好奇の目に晒される。捨て鉢になってもおかしくないが、それでも世のため人のために生きることを選ぶ主人公像を、深い内面演技で表現している。ブルック・アダムスにトム・スケリット、そしてマーティン・シーンといった面子も強力だ。

 クローネンバーグ監督が得意とする変態演出は抑え気味で、ウェルメイドなサスペンス編に徹しているが、それが却って万人に比較的受け入れられやすいテイストに繋がったと言える。とはいえ、日本での公開は完成から5年後の87年であり、それもミニシアターのみの封切りであったことは、当時はこの作家の“芸風”は一般的ではなかったことを示していて興味深い。

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