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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「映画大好きポンポさん」

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 2021年作品。いかにも若年層向けお手軽作品みたいな雰囲気とキャラクターデザインで、通常なら敬遠したくなるタイプのシャシンなのだが、映画作りを題材にしているということで敢えて観てみた。結果、驚いた。これはなかなかの快作だ。何より、送り手が映画製作の基本を的確に押さえている点が素晴らしい。特に、映画業界に少しでも興味のある向きは必見の作品かと思う。

 映画の都“ニャリウッド”で腕を振るう若手女性プロデューサーのジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネット(通称:ポンポ)は、主にB級作品で実績を残しているが、実は大物映画製作者の孫でその才能を受け継いでいた。彼女にアシスタントとして雇われている青年ジーン・フィニは、いつか映画を撮ることを夢見ているが自信が無く、何事も消極的だ。そんな彼にポンポから新作の15秒CM製作のオファーが来る。



 意外にもそのCMの仕事に手応えを感じたジーンに、今度は伝説の俳優マーティン・ブラドックの復帰作の演出という、ビッグチャンスが舞い込む。彼はオーディションで選ばれた新人女優のナタリー・ウッドワードらと共に、一筋縄ではいかない撮影作業に臨む。杉谷庄吾による同名コミックを元にしたアニメーションだ。

 とにかく、物事がロジカルに進むのが観ていて気持ちが良い。もちろん、ジーンが元々大きな潜在能力を持っていたとか、ポンポが非凡な“政治力”を最初から持ち合わせていたとかいう御都合主義的な設定は見受けられるのだが、それらを単なる“約束事”として片付けられるだけの求心力が作劇にはある。なぜポンポは気弱に見えるジーンを雇い入れ、そして大きな仕事を任せたのか。どうしてナタリーは採用されたのか。製作陣は撮影時に発生したトラブルをどのように乗り切るのか。このような展開に伴う必然性を決して疎かにしない。

 ストーリー面で感心したのは、映画作りにおける編集作業の重要性をクローズアップさせていることだ。どのシークエンスが無駄か、あるいは無駄ではないのか。それを見極めるためにジーンは悩む抜く。その様子が明示されていることによって、逆に“足りないシークエンス”があることを認識するという筋書きには唸ってしまった。平尾隆之の演出はそのあたりを強調するかのように、編集プロセスを映像的ケレンを駆使して描いている。

 “映画の中に作り手はいるのか”などの含蓄のあるセリフも印象的。また、ジーンの学生時代の同級生で今は大手銀行に勤めるアランというキャラクターの存在は出色で、この銀行がポンポたちの仕事に出資するかどうかのサブ・プロットも光る。登場人物たちの努力が反映される終盤の処理も含めて、鑑賞後の感触は上々だ。初めて声の出演を務めた清水尋也と大谷凜香、そして小原好美に加隈亜衣、大塚明夫、木島隆一などの手練れの声優陣の仕事ぶりも万全である。

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