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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ジョニー」

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 (原題:JOHNNY)2023年3月よりNetflixより配信。いわゆるターミナルケアの問題を宗教のモチーフを絡めて上手く描き、とても感銘を受けたポーランド映画だ。ただし、いささかストーリー展開が出来すぎという印象もある。ところが終盤でこの映画が実話を元にしているということが示され、本当に驚かされた。まさに事実は小説より奇なりという諺を地で行くような展開である。

 若い男パトリックは少年の頃から札付きの悪ガキで、仲間とつるんで金持ちの家に押し入ろうとするが反対に家人からボコボコにされた挙げ句、強盗罪で服役する。そんな彼が、ホスピスケアセンターでの360時間の社会奉仕活動を条件に保釈される機会を得る。最初は適当に済まそうと考えていたパトリックだが、所長のヤン・カツコフスキー神父(通称ジョニー)の熱心な仕事ぶりを見るに及び、次第に態度を改めるようになる。実は神父は難病で余命幾ばくも無く、最後に業績を残すためこの施設を立ち上げたのだった。



 捨て鉢になっていたパトリックの内面が、入所者たちの最期に立ち会うようになり揺れ動く様子が、かなり的確に描かれている。いくら反社会的な行動を取っていたとしても、つい最近まで面と向かって話していた人間が次々と世を去って行く現場に居合わせると、考えを変えるものだ。さらにはジョニー神父の我が身を省みない熱心な行動に付き合えば、改心せずにはいられない。

 パトリックには思わぬ料理の才能があることが分かり、センターの厨房を任されると共に有名レストランで働くチャンスも掴めそうになる。ところが話はそう上手くいかない。その事情というのがまた泣かせるが、それがラスト近くの伏線になるのも心憎い処置だ。また、旧態依然とした司教ら教会の幹部たちとジョニー神父との確執も手際よくサブ・プロットとして挿入される。

 ダニエル・ヤロシェックの演出は本当にソツが無い。弛緩したところが見当たらず、盛り上げるべき勘所をシッカリと押さえている。まさにプロの仕事だ。ダビッド・オグロドニクとピョートル・トロヤンの主演コンビも好調で、おそらく本国ではかなりキャリアのある役者なのだと想像させる。そしてミカル・ダバルのカメラによる映像は素晴らしく、清涼かつ深みのある画面構成を形成している。終幕は現在のパトリック本人と在りし日の神父の姿が映し出されるが、その紹介の仕方も絶妙だ。チェックして損しないヨーロッパ映画の秀作である。

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