辻村深月「傲慢と善良」
直木賞作家の肩書きを持つ辻村深月の作品は今まで何冊か読んでいるが、いずれもピンと来なかった。とにかくキャラクターの掘り下げも題材の精査も浅く、表面的でライトな印象しか受けない。とはいえ、私がチェックしたのは初期の作品ばかり。最近は少しはテイストが違っているのかと思い、手にしたのが2019年に上梓された本書。だが、残念ながら作者に対する認識は大きく変わることはなかった。...
View Article「恋のいばら」
最近の城定秀夫監督の多作ぶりには驚かされる。昨年(2022年)には4本をこなし、2023年にも複数が待機している。一時期の三池崇史や廣木隆一に匹敵するペースだ。しかし城定が彼らと違うのは、ある一定のレベルはキープしていること。びっくりするほどの傑作は無いかもしれないが、箸にも棒にもかからない駄作も見当たらない。職人監督としての手腕は評価すべきで、本作も気分を害さずに劇場を後に出来る。...
View Article「とりたての輝き」
81年作品。製作元は東映セントラルフィルムで、どう見ても単館系の興行が相応しい内容と規模のシャシンだが、当時は“諸般の事情”によって井上眞介監督の「夏の別れ」との二本立てで東映系で全国拡大ロードショーの扱いになったらしい。いわば番線の“穴埋め”としての公開で、客の入りも期待できるものではなかったが、昔はこのようなイレギュラーな興行が罷り通っていたのだろう(現在なら在り得ない)。...
View Article「そして僕は途方に暮れる」
本作に限らず人間のクズを主人公にしたシャシンは少なくないが、この映画はそのクズっぽさが中途半端で煮え切らないことがミソである。しかも、それが作品の瑕疵になっておらず、幾ばくかの共感さえ覚えてしまうあたりが玄妙だ。殊更大きく持ち上げるような映画ではないものの、観て損はしないレベルには仕上げられている。キャストも、ごく一部を除けば好調だ。...
View Article理不尽な校則が現存していることに驚いた。
去る1月29日の毎日新聞に、鹿児島市の公立高校では男子生徒の防寒着に制限を設けていることが、同新聞の情報公開請求で判明したという記事が掲載された。何でも“オーバー・ジャンバーコート等の着用は認めない。ただし、生徒指導部の異装許可がある場合はこの限りではない”という内容らしく、要するに学校当局の許可がなければ、どんなに寒くてもコート類は着用禁止ということだ。...
View Article「エンドロールのつづき」
(原題:LAST FILM SHOW)一部には“インド版「ニュー・シネマ・パラダイス」”という評があるらしいが、明らかに違う。断っておくが、私は「ニュー・シネマ・パラダイス」は嫌いである。ならばそれとはアプローチが異なる本作は評価出来るのかというと、そうでもない。映画にとって一番重要なファクターは脚本であり、本作のように筋書きが要領を得ないシャシンを持ち上げるわけにはいかないのだ。...
View Article「子供たちの王様」
(原題:孩子王)87年作品。中国の代表的監督である陳凱歌(チェン・カイコー)が才気煥発だった頃の映画で、かなりの高クォリティを実現している。彼はこの6年後に代表作「さらば、わが愛/覇王別姫」を撮るのだが、見ようによっては(派手さは無いが)本作の方が存在感が大きい。アジア映画好きならばチェックする価値はある。...
View Article「パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女」
(英題:SPECIAL DELIVERY)ジョン・カサヴェテス監督の「グロリア」(80年)に、あまりにも似ていることに驚いた。ならば“単なるモノマネ”なのかというと、それは違う。基本設定と展開こそ共通しているが、現時点で韓国映画においてこのネタを扱うだけの御膳立ては整えられている。作劇のテンポは良好で、各キャラクターも“立って”いる。楽しめる活劇編だ。...
View Article「キャバレー」
(原題:Cabaret )71年作品。私は“午前十時の映画祭”にて今回初めてスクリーン上映に接することが出来た。元ネタのブロードウェイミュージカルは今でも世界中で上演されているほど有名だが、この映画版は当時としてはかなり野心的な体裁で、そのあたりが評価され米アカデミー監督賞などの各種アワードを獲得している。ただし、今観て面白いと言えるかどうかは、意見が分かれるところだろう。...
View Article「ブラック・ウィドー」
(原題:Black Widow )似たタイトルのマーベル映画があるが、これは別物。87年作品のサスペンス編だ。正直言って、出来は凡庸で取り立てて高く評価すべきものではない。しかしながらキャストの存在感は大したもので、それだけで観て得した気分になる。加えて、題材自体が現時点で考えても割とタイムリーである点が興味深い。...
View Article「アモーレの鐘」
81年東宝作品。公開時は市川崑監督の「幸福」との併映だったらしい。内容はまったく面白くなく、ありきたりの物語展開、凡庸な演出、新人を中心にした出演者の硬い演技など、本来ならば言及しないほどのシャシンだが、後述する3つの点によりこの作品は注目に値する。もとより、二本立ての“メインじゃない方”の映画なので、不用意に期待して裏切られるよりも少しでも良かったところを見出すのが得策だろう。...
View Article「すべてうまくいきますように」
(原題:TOUT S'EST BIEN PASSE )作劇に突っ込みどころがあることを承知の上で、作者は覚悟を持ってこの物語を粛々と綴っていく、その思い切りの良さに感服した。各個人が抱える事情というものは、必ずしも厳格な因果律で割り切れるものではないのだ。不条理とも思える筋立てにより、自らの身の処し方を決定することもある。そのことを改めて認識した。...
View Article「2つの人生が教えてくれること」
(原題:LOOK BOTH WAYS)2022年8月よりNetflixより配信。これは、アイデアの勝利だろう。このネタは誰でも思い付きそうだが、実際に映画として成立させた例はあまり無いと思われる。しかも、観る側から“所詮はワン・アイデアじゃないか”と見透かされることを避けるため、構成はとても良く考えられている。観て損は無い一編だ。...
View Article「生きててごめんなさい」
主人公たちが抱える懊悩が痛いほど伝わってきて、観ていて引き込まれるものがある。これは別に彼らのような若年層に限ったことではなく、少しでも周囲の者たちの価値観や行動様式に違和感を覚えている人間ならば、年代問わず共鳴できるはずだ。言い換えれば、もしも本作にまったく感じ入るものが無かったとしたら、それはある意味幸せなことかもしれない。...
View Article「銀平町シネマブルース」
映画館に対して特段の思い入れがある観客は、本作をとても面白く感じるだろう。反面、そうではない者にはこの映画は響かない。ならば私はどうかといえば、基本的に“映画は劇場で観るものだ”というスタンスを取っている手前、この映画の題材は興味深い。しかし、この映画を楽しんで観る層とは、おそらく映画館の在り方についての見解が違う。そこが本作の評価にも繋がってくる。...
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