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「とりたての輝き」

 81年作品。製作元は東映セントラルフィルムで、どう見ても単館系の興行が相応しい内容と規模のシャシンだが、当時は“諸般の事情”によって井上眞介監督の「夏の別れ」との二本立てで東映系で全国拡大ロードショーの扱いになったらしい。いわば番線の“穴埋め”としての公開で、客の入りも期待できるものではなかったが、昔はこのようなイレギュラーな興行が罷り通っていたのだろう(現在なら在り得ない)。

 タイトルの“とりたて”とは借金取りのことで、語感から受ける爽やかさとは無縁だ。少年院出身の雄也は、兄貴分の英次と組んでサラ金の取り立てを請け負っている。その手口は実に悪質で、サラリーマンの女房は乱暴した挙句に返済のために売春を強要、高校の教師には娘の大学まで押しかけて迷惑行為のし放題と、手段を選ばない。2人の私生活も荒み切っており、付き合う女はモノ扱いだ。

 そんな中、雄也の以前の交際相手であった桂子が赤ん坊を連れて押しかけて来る。子供は雄也との間にできたもので、彼女は別れた後に内緒で産んだという。さらには英次が取り立てた金を使い込んで逃亡。雄也は連帯責任を問われ、窮地に陥る。著名な脚本コンクールである城戸賞の80年度佳作入選作の映画化で、執筆した浅尾政行が監督も担当している。

 とにかく、主人公たちの無軌道な生活を一点の救いもないほどに突き放して描いているのが印象的だ。彼らの過激なおこないは本人たちのプラスにもならないどころか、鬱憤晴らしやストレス解消にさえなっていない。やればやるほど気分が落ち込んでいくだけだ。しかし、他に何もすることが無い。それだけの教養や人生経験を持ち合わせていない。社会から見捨てられた若者のヒリヒリした内面が、痛いほど伝わってくる。

 しかしながら、これが監督デビュー作にもなった浅尾政行の仕事ぶりは万全とは言い難く、思い切った仕掛けや、ここ一番の見せ場が無い。もっとケレンを活かした方が良かった。それでもキャストは健闘しており、主演の本間優二と田村亮のコンビネーションは良好だ。森下愛子や滝沢れい子、原日出子、水島美奈、そして宮下順子など、その頃の旬の女優たちが本領を発揮しているのも嬉しい。音楽を羽田健太郎が担当しているというのも、意外な起用だ。
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