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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「アモーレの鐘」

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 81年東宝作品。公開時は市川崑監督の「幸福」との併映だったらしい。内容はまったく面白くなく、ありきたりの物語展開、凡庸な演出、新人を中心にした出演者の硬い演技など、本来ならば言及しないほどのシャシンだが、後述する3つの点によりこの作品は注目に値する。もとより、二本立ての“メインじゃない方”の映画なので、不用意に期待して裏切られるよりも少しでも良かったところを見出すのが得策だろう。

 信州の美ヶ原で主人公の松本龍一は都会からやってきた厳本陵子と出会う。陵子は行方不明になった弟を探しにこの美ヶ原に足を運んだらしい。龍一は彼女の境遇に同情する以前に、愁いを帯びた年上の女性の佇まいに惹かれてしまう。彼が陵子の道案内をするうちに互いの距離は縮まっていくが、あるとき“私を忘れないで”という言葉を残して彼女は姿を消してしまう。

 渡辺邦彦監督の仕事ぶりはピリッとせず、この芸の無い筋書きを盛り上げようという努力もさほど感じられないのだが、その中にあって前述の3点は語る価値がある。ひとつは、映像の美しさである。押切隆世のカメラがとらえた四季折々の美ヶ原の風景は観る者をシビれさせずにはおかない。この点だけに限れば本作はその頃の日本映画の中でも上位に属する。

 2つめは、これが映画デビュー作になったヒロイン役の城戸真亜子の魅力だ。正直、演技力はほとんどない。見どころのある俳優というのは、たとえそれが映画第一作であろうが、演技が未熟であろうが、どこかに光るものがあるのが普通だが、彼女にはそれが感じられない。事実、城戸は現在に至るまで女優としては目立った実績を残せていないのだ(バラエティ番組の司会や画家としての仕事の方が有名)。

 しかしながら、今回に限っては城戸のモデル出身らしい見栄えの良さと柔らかい雰囲気が、この映画の上質のヴィジュアルに実に良くマッチしている。なお、龍一に扮する松本秀人や河原崎次郎、宮田真など他のキャストは印象は希薄だ。

 そして3点目は、バックに流れる音楽である。担当しているのはジュニア・オリジナル・コンサートなる団体で、音楽の天才教育を受けた十代の少年少女からなる作曲者グループだ。こういう映像のバックにベテラン作曲家の作品を流すとヘンに重くなる恐れがあるが、ここで新人を起用したことは大きな意義がある。日本映画の音楽とは思えない流麗な旋律は、美しい映像を十分に盛り上げていた。

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