(原題:Evil Under The Sun)82年イギリス作品。70年代半ばから80年代前半にかけてジョン・ブラボーンとリチャード・グッドウィンのコンビが製作したアガサ・クリスティ原作の映画化は次々にヒットしてきたが、これはその中の一本。1941年に書かれた「白昼の悪魔」(私は未読)の映画化で、ガイ・ハミルトンの堅実な演出も相まって、水準を超えた出来になっている。
イギリスの荒地で、ハイカーによって婦人の死体が発見される。その頃、ロンドンの保険会社でエルキュール・ポアロはホーレス卿から仕事を依頼されていた。ホーレス卿は婚約した女優のアリーナに20万ドルの宝石を与えたのだが、彼女は他の男と結婚してしまった。宝石を取り戻したところ、それがニセ物だったらしい。果たしてアリーナは本物を着服したのかどうか、ポワロに確かめて欲しいという。
当のアリーナはアドレア海の孤島にあるホテルで休暇を過ごしているので、ポアロもそこへ乗り込む。ホテルは気難しい女主人ダフニーをはじめ、一癖も二癖もある人物達が顔を揃えていた。そんな中、アリーナが浜辺で殺されているのが見つかる。ホテルの滞在者には全員鉄壁のアリバイがあり、捜査は難航すると思われた。しかしポワロの灰色の脳細胞は確実に犯人を追い詰めてゆく。
散りばめられていた伏線がラストに向かってキッチリと回収されていく様子は、実に気持ちが良い。使われているトリックは原作通りだと思われるが、実際に映画で見せつけられると“なるほど!”と納得してしまう。そして何より、舞台になる地中海のリゾート地の風景が観光気分を引き立てる。
ピーター・ユスティノフ演じるポワロのキャラクターがケッ作で、気取ってはいるけど雰囲気が風光明媚な土地には似合わないというディレンマが面白おかしく表現されている。特に、泳げないのに一応は水着で浜辺に出て、水泳のマネゴトをしてお茶を濁すくだりは笑った。
このシリーズでは付き物の豪華なキャスティングも魅力で、ジェーン・バーキンにジェームズ・メイソン、ロディ・マクドウォール、ダイアナ・リグ、マギー・スミスといった面々が持ち味を出したパフォーマンスを披露している。コール・ポーターの音楽とアンソニー・パウエルによる衣装デザインも要チェックだ。クリスティ作品をはじめとする本格派ミステリーの映画化は最近あまり見かけないが、そろそろ新しい作品も観たいところである。