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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「遥かなる大地へ」

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 (原題:FAR AND AWAY)92年作品。19世紀、はるかな夢の国アメリカに大志を抱き、祖国アイルランドを後にした男と女。それは厳しく無情な旅の始まりであった・・・・。ロン・ハワード監督がトム・クルーズと組んだ大作で、当時アメリカ映画としては久々の70ミリ映像も話題になっていた。

 観終わってガッカリ。要するに、アイルランドの貧しい小作人の息子が、男勝りでわがまま放題の地主の娘と出会い、二人でアメリカに渡り、めでたしめでたし、という話だ。これがファンタジーならともかく、アメリカの歴史を背景にしてリアルに描かれなければならない素材なのに、そのへんがすっかり抜け落ちている。ろくに取材もせずに、あわただしく撮影を始めてしまったのではないか?



 そもそも「遥かなる大地へ」という邦題に偽りありだ。題名通りの広大な大地があらわれるのは、ラスト15分だけではないか。あとは天気の悪いアイルランドの田舎と、やたら暗いボストンの貧民街(この部分がめちゃくちゃ長い)の描写だけである。特にボストンの場面は主人公がストリート・ファイトで金を稼ぐくだりが必要以上に冗長で、別にこの時代が舞台でなくてもかまわないような展開が続く。作り手の歴史的事実の不勉強を如実に示していると思う。

 冒頭近くの父親の最期の場面を、ラストでは主人公に振ってくるあたりなど芸がないし、第一“土地獲得競争”のプロセスが十分説明されていないからドラマ的に盛り上がるわけがない。

 加えて、主人公の二人にはほとんど感情移入できない。トム・クルーズは最後まで気のいいだけのアンチャンだし、ニコール・キッドマンは威勢がいいだけの女性でしかなく、こちらの共感を呼ぶような人間的葛藤とか、個性のぶつかり合いなどはどこにも見あたらないのは困ったものだ。能天気なだけのキャラクターではこの歴史的ドラマを支えきれるわけがない。70ミリの大画面や流麗なカメラワーク、エンヤによるテーマ音楽も今となってはしらじらしい限りだ。

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