(原題:LOVING)題材やキャストの演技は悪くない。しかし、あまりにも演出が抑え気味で、盛り上がりに欠ける。おそらく作者としては余計なケレンを廃して対象を自然に扱いたかったのだと思うが、こうも展開が平板だと観ていて眠気を覚えるのも仕方が無い。少しはエンタテインメントに振った映画作りをした方が、広範囲な支持を集めたと思う。
1958年、バージニア州の田舎町セントラル・ポイントに住むレンガ職人リチャード・ラビングは、恋人のミルドレッドから妊娠したことを告げられ、大喜びで結婚を申し込む。しかしリチャードは白人で、ミルドレッドは黒人であった。当時バージニア州では、異人種間の結婚は違法だったのだ。
そこで2人は、異人種間の結婚が認められている首都ワシントンで結婚式をあげ、地元に戻って暮らし始める。だが、結局は警察に逮捕された2人は裁判所から離婚するか州外に住むかという二者択一を迫られる。やむなく故郷を後にして都会に出るラビング夫妻だったが、子育てを環境の良い田舎でしたいとの思いが募り、思い切った行動に出る。1967年に異人種間結婚を禁じる法律を無効にする判決が下った“ラビング対バージニア州裁判”の顛末を描く実録ものだ。
まず、ほんの50年ぐらい前まで異なる人種同士の婚姻が禁じられていたという、アメリカの極端に保守的な有り様には驚く。言い換えれば、現在でもこの国は基本的にあまり変わっていないということだろう。それだけに、2人が生まれ育ったバージニア州の小さな町のリベラルな雰囲気が印象的だ。
ただし、前述のようにストーリー運びはメリハリが無く訴求力に乏しい。たとえば、彼らがこっそりと故郷に戻ってきて隠れ住むというくだりは、いつ当局側に見つかるかというサスペンスを醸成しても良いはずだが、扱いは淡白に過ぎる。訴訟の支援勢力の人間模様や、裁判のプロセスなどもじっくり描きたいところだが、呆気なくスルーされている。ジェフ・ニコルズの演出は慎重さを通り越して“及び腰”になっている感があり、こんな調子でハッピーエンドを用意してもらっても鼻白むばかりである。
ただし、出演者はかなり健闘している。寡黙なリチャードに扮するジョエル・エドガートンは、まさに佇まいだけで全てを語ってしまうような存在感を発揮。そしてミルドレッド役のルース・ネッガの演技は素晴らしい。控え目なから凛とした力強さを見せるかと思えば、家族に対しての甘やかな愛情の表現にも抜かりが無い。アカデミー賞はファニーフェイスのねーちゃんではなく彼女が取るべきだっただろう。マートン・ソーカスやテリー・アブニー、マイケル・シャノンといった脇の面子も良い味を出している。