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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「わるいやつら」

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 80年松竹作品。原作が松本清張で監督が野村芳太郎監督とくれば、代表作「砂の器」をはじめ、対象に肉迫するようなタッチが印象的な一連の映画を思い出すが、本作はこのコンビとしては珍しく“引いた”描き方をしている。あえて言えばドキュメンタリー・タッチに近い。

 もっとも、その手法が作品のヴォルテージを下げているかというと全くそうではなく、素材をオフに捉えることにより、ストーリーの陰惨度や登場人物達の非人間性を浮き彫りにさせている。いずれにせよ、この頃の野村監督の力量を十分に確認出来る映画であろう。



 総合病院の院長である戸谷は、有能だった先代とは比べものにならない小物で、今では交際している女たちに貢がせて医院の赤字を補填している始末である。愛人の一人であるたつ子の夫が病に伏せっていると聞き、戸谷は財産をせしめるためにたつ子と共謀して夫を殺害。それを皮切りに、邪魔な人間を次々と消していく。だが、そんな悪事がいつまでも隠し通せるはずもなく、信用していたブレーンから思わぬ裏切りに遭い、彼は窮地に陥る。

 とにかく、出てくる連中がすべて悪党。そういえば北野武の「アウトレイジ」シリーズも“全員、悪人”というキャッチフレーズだったが、あっちはヤクザの世界だからそう違和感(?)はない。だが本作は、一見カタギの市井の人々が、欲に目がくらんでエゲツない悪事に手を染めるという、松本清張らしいピカレスクな世界を構築している。

 それがまたカメラを引いたクールな筆致で切り取られるものだから、衝撃度はかなり高い。しかもラストには一番この事件に関与していないと思われた人物が凶悪な本性をあらわすという、悪意に満ちたオチが待っている。

 主演の片岡孝夫をはじめ、梶芽衣子、藤真利子、宮下順子、藤田まこと、緒形拳、渡瀬恒彦、米倉斉加年、松坂慶子といったオールスターキャストを揃え、それぞれのダークなキャラクターを遺憾なく引き出している野村監督の腕は大したものだ。川又昂のカメラによる寒色系の画面構築、芥川也寸志による職人芸とも言える音楽も効果的だ。

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