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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「赤い航路」

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 (原題:BITTER MOON )92年作品。監督はロマン・ポランスキーで、本作は演出のほかに脚本と製作も担当している。いかにも彼らしいニューロティックなドラマで、一般に言われているような“80,90年代はスランプにあった”という定説が怪しいことを示すものである。

 地中海をイスタンブールに向かう豪華客船の船上に、ナイジェル(ヒュー・グラント)とフィオナ(クリスティン・スコット・トーマス)の若夫婦がいた。一見幸せそうに見える2人だが、すでに倦怠期が忍び寄ってきている。ナイジェルは車椅子の男オスカー(ピーター・コヨーテ)と知り合う。パリ在住の作家であるオスカーは、ナイジェルに妻ミミ(「フランティック」のエマニュエル・セイナー、ポランスキー夫人でもある)との関係を聞かれるともなしに語り出す。



 パリの街角でのまだ幼さの残るミミとの出会いから、情熱に燃えた日々。だが、幸せな時はあっという間に過ぎ、倦怠に抵抗するために、変態的セックスにのめり込んでいったこと。背徳の香りがする2人の性生活に嫌悪感を覚えながらも、毎夜語られるオスカーの話に引き込まれて行くナイジェルであったが・・・・。

 映画の設定および扇情的なポスターから、とてもエッチでねっとりした映画ではないかという私の期待(?)は完全にハズれた。たしかにからみのシーンはひんぱんにあらわれるが、エロティシズムが希薄。そのかわりに、追いつめられてしまった男女の心のきしみが聞こえるような殺伐とした雰囲気が残る。ここでのセックスは愛の営みでもなければ快楽でもない、すでに中身のない、アブノーマルな苦行と化している。ここまで来てしまうと、もう自嘲的に笑うしかない。ブラック・ユーモア的ギャグが効果的に挿入されているのもそのせいだろう。

 純粋な愛も時が経てば欲望の虜となり、さらには精神的・肉体的な残酷性へと容易に変貌していく、という諦観にも似た作者の思いが伝わって来るようだ。全編カメラは船の中から出ることはない。14週間に及んだ船上の撮影が出演者に与えた精神的緊張感もかなりのものだったろう。この一種閉所恐怖症的な不安感はポランスキーの最も得意とするところである。

 ヴァンゲリスの音楽も効果的ながら、ショッキングなラストは忘れられない印象を残す。

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