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Channel: 元・副会長のCinema Days
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横山秀夫「64(ロクヨン)」

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 瀬々敬久監督による映画化作品は観ていないし、観る予定も無い。何しろ、あの絶叫演技のオンパレードみたいな予告編は、鑑賞意欲を削ぐには十分である(笑)。だが、この原作は2012年の「週刊文春ミステリーベスト10」で第一位に輝くなど、多くのアワードを獲得しているベストセラーでもあり、一応チェックした次第だ。しかしながら、世評とは裏腹に楽しめない結果に終わってしまった。

 2002年、D県警本部で刑事畑から広報官として抜擢された三上義信は、かつて昭和64年に同管内で起こった幼女誘拐殺人事件(通称・ロクヨン)の捜査に当たっていた。結局犯人は見つからず、しかも身代金も奪われてしまう。時効間近になったこの事件に関し、警察庁長官が視察に訪れることが決まり、三上は被害者遺族宅への長官の慰問許可を取り付けて来るよう上司から命じられる。しかし先方からは色良い返事はもらえず、記者クラブの面々からは突き上げられ、しかも三上の娘は失踪中で本当は仕事どころではない。だが、実は今回の案件がロクヨンの新たな真相を見出すことになる。



 かなりの長編だが、呆れたことにロクヨンが解決に向けて動き出すのは全体の4分の3が過ぎたあたりからだ。では何が小説の大部分を占めているのかというと、刑事部と警務部との軋轢と、上司の無茶振りと、傲慢なマスコミ人種とのやりとりに神経をすり減らす三上の屈託である。そして、それらがあたかも天下の一大事だと思い込んでいる主人公の“ギリギリの行動”が大仰な筆致で綴られるのみだ。

 ハッキリ言って、そんな懊悩は当事者以外にとってはどうでも良い。某刑事ドラマのセリフではないが“事件は会議室で起こっているのではない。現場で起こっている”のである。内輪の話なんか、聞きたくない。もちろん、三上の立ち振る舞いが良く出来たサラリーマン小説みたいに面白ければ許せるのだが、どうでもいいモノローグがグダグダと続くだけで、読んでいて面倒くさくなってくる。

 ならば終盤近くに唐突に起こる別の誘拐事件と、ロクヨン捜査の進展が盛り上がるのかといえば、全然そうではない。どう考えてもあり得ないプロットが大手を振ってまかり通り、気勢の上がらないラストが待ち受けるのみだ。

 とにかくこれはミステリーでもなければ、正攻法の人間ドラマでもない。何とも中途半端なシロモノだと思う。横山秀夫の小説は他に何冊か読んでいるが、本作が一番面白くない。

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