アイデアの勝利とも言える快作。原作(此元和津也によるコミック)は存在するのだが、この脱力系のネタをあえて映画化しようとする心意気は評価したい。刺激的な画面を挿入すればそれでヨシとするような昨今のトレンドに、真っ向から対抗するような姿勢は頼もしい限りだ。
大阪のとある町の川べりで、毎日取り留めもない会話を交わす2人の男子高校生。一人は塾に行くまでの時間を潰すためにやってくる秀才の内海想、そしてもう一人はサッカー部を退部してする事がない瀬戸小吉。内海はいわゆる“スカした野郎”で、周囲を“軽く”見ていて友人もあまりいない。対して瀬戸は部活のハードさにも付いていけなかったお調子者のヘタレだが、陽気で屈託がない。正反対のキャラクターの2人ながらどこかウマが合い、川辺でのひと時を楽しんでいる。
形式としては瀬戸がボケで、内海がツッコミ。話の内容は瀬戸のファンキーな家族のことだったり、やり始めた変なゲームことだったり、そして当然のことながら好きな女子について等々だ。映画は複数のパートから成る、いわばオムニバスものである。
とにかく、方言のリズムと玄妙な掛け合い、そして主人公たちのグダグダな佇まいが観ていて実に気持ち良い。単なる無駄話の羅列ではなく、それぞれ前フリがあってちゃんとオチがある。起承転結がシッカリと構成されているのだ。ギャグのかまし方も堂に入っており、上映中は笑いが絶えなかった。
しかしながら、そんなユーモラスな展開の裏にもペーソスが織り込まれているのはポイントが高い。内海は親とソリが合わず、開けっぴろげな瀬戸の両親のことを羨ましく思っている。だが、瀬戸の父母は離婚の危機にあり、認知症を患う祖父の存在も悩ましいところだ。2人が苦手とする横暴な先輩も、実は家を出て行った父のことを思っている。瀬戸の片想いの相手である樫村でさえ、家庭環境は万全ではない。
そして何より、2人が他愛の無い会話を楽しめる時間が残り少ないことに胸が締め付けられる。やがて高校を卒業し、それぞれの道を歩むことになる彼らにとって、これから損得抜きで語り合える相手に巡り会える可能性は決して大きくは無い。もしかすると、これが最後かもしれないのだ。若者時代の一断面を提示することによって、人生の機微まで問う大森立嗣の演出はけっこうレベルが高い。
主演の池松壮亮と菅田将暉は絶好調。2人とも近年は登板回数が多いが、演技の出来る若手男優は彼ら以外にはあまりいないので仕方がないのかもしれない。タンゴを基調とした平本正宏の音楽は見事。今年度屈指のスコアだろう。鈴木卓爾や成田瑛基、笠久美といった脇の面子も良い。ただし、樫村役の中条あやみはミスキャストだ。寺の娘がハーフというのは、どうも違和感がある(笑)。見た目の可愛さだけで起用するのも、ちょっと困りものだ。