(原題:Harry & Tonto)74年作品。当時のアメリカ映画を代表する秀作だと言われているが、私は“午前十時の映画祭”で初めてスクリーン上で接することが出来た。なるほど、味わい深い内容で感銘度も高い。改めて老境を迎えての人生のあり方について考えさせられた。
主人公のハリーは、愛猫のトントとマンハッタンのアパートに住んでいる老人だ。ここが終の棲家だと思っていたのだが、区画整理のために建物は取り壊されることになり、ハリーもアパートから強制的に立ち退きを迫られた。彼はトントを連れて市内に住む長男のバートの家に身を寄せることになるが、長男の嫁は露骨にハリーを嫌う。仕方が無いのでシカゴにいる長女シャーリーの元に行くことにするが、トントと一緒では飛行機の中に入れてもらえず、代わりに乗った長距離バスからも追い出され、中古車を買って目的地に向かうことにした。
ようやくたどり着いたシカゴは寒暖の差が大きい土地で、特に冬は底冷えがするため老人にとって住みやすいとは言えない。シャーリーからの“一緒に暮らそう”という提案を断り、次男エディの住むロスアンジェルスに向かう。だが、久しぶりに会ったエディは失業中。それでもハリーは息子を励ましながら、温暖な気候の西海岸で何とか暮らしていくことを決める。
ハリーと旅先で出会う人々との絡みの描き方が出色だ。特にヒッチハイクで旅行中の若い娘ジンジャーと知り合い、彼女の勧めで初恋の相手でダンサーだったジェシーに会いに行くエピソードには泣かされる。ジェシーは認知症を患い、養護ホームで暮らしている。彼女はすでにハリーのことを忘れていたが、彼と一緒に踊ると昔自分がダンサーだったことを思い出し、目を輝かせる。
バートの次男ノーマンはシャーリーの家に先に到着していたが、そこでジンジャーと意気投合。コロラドにあるヒッピーのコミューンへと旅立つことになるが、ハリーは同行を求める彼らと別れる。若者の気負いに理解を示しながらも、すでに行動を共にする資格は無いことを自覚するほろ苦さが印象的。猫好きということで意気投合した老カウボーイや、ラスベガスで留置所に入れられた際に知り合ったインディアンの酋長、そして旅立つ前にニューヨークで永久に別れを告げたポーランド出身の老人など、それらの描写の中で失われていくアメリカの原風景が象徴されていくあたりも上手い作劇だ。
よく“人間、何かを始めるのに「遅すぎる」ということはない”と言われるが、あいにく老人には出来ることは限られている。ハリーにとって、新天地でまた相棒を見つけて身の処し方を考えるのが精一杯だ。それでも、人生の終焉を受け入れる静かな気持ちを獲得していく主人公の“成長”は、観ていて気分が良い。
ポール・マザースキーの演出は正攻法でソツがない。彼の最良の仕事の一つだろう。主演のアート・カーニーは本作でオスカーを獲得しているが、それも頷けるほどの飄々とした名演。エレン・バースティンやジェラルディン・フィッツジェラルドら、脇もシッカリと固められている。ビル・コンティの音楽も好調。観て良かったと思える作品である。
主人公のハリーは、愛猫のトントとマンハッタンのアパートに住んでいる老人だ。ここが終の棲家だと思っていたのだが、区画整理のために建物は取り壊されることになり、ハリーもアパートから強制的に立ち退きを迫られた。彼はトントを連れて市内に住む長男のバートの家に身を寄せることになるが、長男の嫁は露骨にハリーを嫌う。仕方が無いのでシカゴにいる長女シャーリーの元に行くことにするが、トントと一緒では飛行機の中に入れてもらえず、代わりに乗った長距離バスからも追い出され、中古車を買って目的地に向かうことにした。
ようやくたどり着いたシカゴは寒暖の差が大きい土地で、特に冬は底冷えがするため老人にとって住みやすいとは言えない。シャーリーからの“一緒に暮らそう”という提案を断り、次男エディの住むロスアンジェルスに向かう。だが、久しぶりに会ったエディは失業中。それでもハリーは息子を励ましながら、温暖な気候の西海岸で何とか暮らしていくことを決める。
ハリーと旅先で出会う人々との絡みの描き方が出色だ。特にヒッチハイクで旅行中の若い娘ジンジャーと知り合い、彼女の勧めで初恋の相手でダンサーだったジェシーに会いに行くエピソードには泣かされる。ジェシーは認知症を患い、養護ホームで暮らしている。彼女はすでにハリーのことを忘れていたが、彼と一緒に踊ると昔自分がダンサーだったことを思い出し、目を輝かせる。
バートの次男ノーマンはシャーリーの家に先に到着していたが、そこでジンジャーと意気投合。コロラドにあるヒッピーのコミューンへと旅立つことになるが、ハリーは同行を求める彼らと別れる。若者の気負いに理解を示しながらも、すでに行動を共にする資格は無いことを自覚するほろ苦さが印象的。猫好きということで意気投合した老カウボーイや、ラスベガスで留置所に入れられた際に知り合ったインディアンの酋長、そして旅立つ前にニューヨークで永久に別れを告げたポーランド出身の老人など、それらの描写の中で失われていくアメリカの原風景が象徴されていくあたりも上手い作劇だ。
よく“人間、何かを始めるのに「遅すぎる」ということはない”と言われるが、あいにく老人には出来ることは限られている。ハリーにとって、新天地でまた相棒を見つけて身の処し方を考えるのが精一杯だ。それでも、人生の終焉を受け入れる静かな気持ちを獲得していく主人公の“成長”は、観ていて気分が良い。
ポール・マザースキーの演出は正攻法でソツがない。彼の最良の仕事の一つだろう。主演のアート・カーニーは本作でオスカーを獲得しているが、それも頷けるほどの飄々とした名演。エレン・バースティンやジェラルディン・フィッツジェラルドら、脇もシッカリと固められている。ビル・コンティの音楽も好調。観て良かったと思える作品である。