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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ダンシング・ヒーロー」

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 (原題:STRICTLY BALLROOM )92年オーストラリア作品。「ムーラン・ルージュ」(2001年)や「華麗なるギャツビー」(2013年)などで知られるバズ・ラーマン監督のデビュー作にして最良作だ。1時間半の上映時間の中に、娯楽映画の粋が集められており、鑑賞後の満足感は高い。

 規定違反のステップを踏んで連盟から厳重注意を受けた花形ダンサーのスコット(ポール・マーキュリオ)は、パートナーのリズに去られ、パン・パシフィック大会のグランプリ受賞の希望を失う。再起を図るスコットは、ダンス教室の生徒フラン(タラ・モーリス)の家族からスパニッシュ・ダンスを伝授してもらい、大会に臨むのであった。ボールルーム・ダンスの世界を舞台に、ダビデとゴリアテの神話に基づいたストーリーを熱血青春ダンス映画に仕立て上げたー作。



 何といっても題材がバレエでもヒップホップでもなく、社交ダンスだというのが凄い。周防正行監督が「Shall we ダンス?」(96年)でこの素材を取り上げるより前に目を付けたことは評価に値する。何となく年寄り臭い印象がある社交ダンスが、これほどまで映画的興奮を喚起させるとは、まったく知らなかった。やはり何にせよ本気で取り組めば立派に映画になるのである。

 話の展開は定石通り。妨害にもめげず見事に栄冠を勝ち取るラストまで、予定調和以外の何物でもない。ダンス・シーンはもちろん圧巻だ。カッティングの鋭さやカメラアングルの大胆さなど、考えられるだけのケレン味を詰め込んでいてそれが少しもあざとく見えない。公開当時は映画館で観たのだが、クライマックスでは観客席から拍手が巻き起こった。その年の東京国際映画祭のヤングシネマ部門で公開された時はたいへんな騒ぎだったそうで、なるほどと思わせる盛り上がりだ。

 しかし、まっとうなスポ根映画と思わせて、その中に非凡な監督の個性が光る部分が多い。主人公の父親(バリー・オットー)のキャラクターなど実によく考えられているし、対して母親は毒々しいメイクで口やかましく、どこかペドロ・アドモドヴァル映画のヒロインを思わせる。そういえば原色オンリーの色彩感覚もアドモドヴァル風だ。さらに父親の過去を描く回想シーンのデカダンスあふれる独特のミュージカル仕立てになっていて驚かせる。おそらくこのポップ感覚がこの監督の本当の持ち味なのだろうと思わせるが、事実、以後の作品はそれが顕在化する。

 あと関係の無い話だが、オーストラリアにもスペインからの移民が数多くいて、ちゃんと市民権を得ていることを公開当時この映画で初めて知った。

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