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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「リリーのすべて」

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 (原題:THE DANISH GIRL )感銘を受けた。同じく性的マイノリティを扱った「キャロル」(2015年)と比べても、志の高さや描写の的確さ等で大きく差を付ける。たとえ題材が特異でも、作品の求心力は確固としたドラマツルギーと巧みなキャラクター設定で決まることを再認識できた。

 1920年代のコペンハーゲン。風景画家として活躍するアイナー・ヴェイナーは、肖像画家である妻のゲルダと結婚して6年、誰もがうらやむ仲の良い夫婦だった。あるときゲルダは、友人でバレエダンサーのウラの肖像画を仕上げるため、都合により来られなくなったウラの代役モデルになってくれと夫に依頼する。仕方なくシルクのストッキングと白いチュチュを身に当てるアイナーだったが、図らずも胸がときめいてしまう。それは、幼い頃から心の中に抱えていた自身の“性”に対する違和感が表出した瞬間だった。



 出来上がった絵は評判を呼び、ゲルダは作品のモデルは親戚筋のリリーであると称して、女装した夫の絵を描き続ける。やがてアイナーは本来男である自身の“性”を捨て、リリーとして生きていくことを決意。当時は前例のない性別適合手術を受けることになる。実話を元にしたデイヴィッド・エバーショフの小説「世界で初めて女性に変身した男と、その妻の愛の物語」の映画化だ。

 何より感心したのは、主人公がどのように自らの“性”について疑問を抱き、やがて後戻り出来ない地点に向かって疾走するのか、それを具体的かつ感情を込めて描いている点だ。このあたりが“何となくそうなってしまった”という感じでお茶を濁していた「キャロル」とは決定的に違う。鏡の前で男性器を股の間に隠して身もだえする場面、覗き部屋の女の動作を真似して必死で“女らしさ”を追い求める姿など、リリー(アイナー)の激しいパッションが画面に横溢して息苦しくなるほどだ。男性としての生活を荒涼とした風景画に託した設定も悪くない。

 さらに、変わっていく夫を見守るしかないゲルダの諦念や、彼らを支える友人ハンスの困惑も過不足無く捉えられている。特に“アイナーはもういない”と観念したゲルダが、それでも彼を支えていくという至純の夫婦愛に駆られるくだりは、切ない感動を呼ぶ。



 監督トム・フーパーは今までで一番良い仕事をしている。展開や演出リズムに乱れが無い。主演のエディ・レッドメインはオスカーを受賞した「博士と彼女のセオリー」(2014年)よりも本作のパフォーマンスは数段ヴォルテージが高い。まさに名演と言って良いだろう。ゲルダに扮したアリシア・ヴィキャンデルの演技も素晴らしい。悲しみを抑えた佇まいにはグッとくる。

 アレクサンドル・デスプラの音楽とパコ・デルガドの衣装デザインは文句なし。ダニー・コーエンのカメラによる映像は見事としか言いようが無く、いささか出来過ぎの感はあるが、各ショットは目覚ましい美しさを見せつけている。

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