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「父と息子の名において」

 (原題:AU NOM DU PERE ET DU FILS )91年フランス作品。おそらくは日本未公開。私は92年の東京国際映画祭で観ている。監督のパトリス・ノワイア(1953年生まれ)はTV畑の出身。短編や産業映画をいくつか作っていたが、1990年、自身の映画会社を設立。長編は本作が初めての作品となる。

 1978年、ノワイア監督の父親は射殺された。パトリスは、14才になる息子を連れて父親の生まれたイタリアに向かった。精神的な傷を過去のルーツをたどることによって癒そうとしたのである。ナポリへ向かう途中、2人はさまざまな体験をする。うさんくさいヒッチハイカーを拾ったり、車を盗まれたり、若い女性と知り合いになって、親子で微妙な三角関係みたいになったり・・・・というような話が続く。

 監督本人と実の息子が出演して、監督ノワイアの実体験をもとに、親子の精神的軌跡をそのままドキュメンタリーのようにドラマ化した興味深い作品である。プライベート・フィルムというより私小説を連想させる。

 旅の終わりにいったい何があるのか。実は何もないのである。実家を見つけ出すことは出来ず、父親のルーツは不明のままだ。しかし、パトリスは父親にについて抱いていた憧れやコンプレックス、屈折したイメージをよみがえらせ、自分の人生を見つめ直し、前向きに生きようとする。そして自分の分身でもある息子を理解することが、彼の疑問に答えてくれる唯一の方法であることを発見する。父親の故郷への旅は、作者の内面への旅でもあった。

 実の親子だからということでもないだろうが、主演2人の演技の呼吸が実に自然だ。ドラマはゆっくりと、ケレン味がなく、静かに流れていく。淡々としたタッチの中に、ほのぼのとしたユーモアを織り混ぜ、味のある小品(上映時間1時間20分)に仕上がった。

 また、昔イタリアからフランスに移住した人々が数多くいたこと、彼らの苦難の歴史も初めて知った。上映後に舞台に出てきたノワイア監督は、映画に描かれた通りの静かな人物であったことを覚えている。なお、同監督のそれからの仕事ぶりは情報が入ってこない。残念ながら、フェイドアウトしたということなのだろうか。
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