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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「マネー・ショート 華麗なる大逆転」

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 (原題:The Big Short )こいつは面白い。かなり硬派な題材を扱っているにも関わらず、観ていてワクワクするようなエンタテインメント性を横溢させ、長めの上映時間も全く苦にならず、最後までスクリーンに対峙できる。今年度アメリカ映画を代表する快作だと思う。

 2005年、変わり者で知られる金融トレーダーのマイケルは、不動産抵当証券の値動きを調べている中で、サブプライム・ローンが数年以内にデフォルトに陥る危険性があることに気付く。そのことを投資家や銀行に告げるが、誰も相手にしない。やがて彼は、信用リスクの移転を目的とするデリバティブ取引の一種であるCDSに目を付け、サブプライム・ローンが破綻した際に多額の保険金が下りる契約を投資銀行と独自に結ぶ。そんなマイケルのやり方を見たウォール街の若き銀行家ジャレドは、低所得者相手に見境なく住宅ローンを組ませている大手銀行を苦々しく思っていたヘッジファンド・マネージャーのマークに、CDSを大量に入手しておくべきだと勧める。

 一方、住宅関連の好景気に乗じてウォール街で一儲けしようとする若き投資家ジェイミーとチャーリーは、今は一線を退いた伝説の銀行家と呼ばれるベンにサポートを依頼する。ベンは彼らをフォローすることを承諾するが、同時に自らの情報網により住宅ブームがバブルに過ぎないことを察知する。そして2008年、遂に住宅ローンの破綻に端を発するマーケットの大混乱が起こる。マイケル・ルイスによるノンフィクションの映画化だ。

 リーマンショックの前にこの一大事を予想していた男たちを描いた映画だが、当然のことながら最初から最後まで経済ネタと金融用語のオンパレードである。登場人物たちの言動もエコノミストとしての業務メソッドに準拠しており、一般ピープルのそれとは掛け離れている。ならば堅苦しい映画なのかというと、全然そうではない。例えて言えば、これはジェットコースター式の娯楽編だ。

 監督のアダム・マッケイは、話が晦渋になることを徹底的に駆逐するため、全編をギャグとハッタリめいた大芝居で埋め尽くした。主要キャラクターが突然観客の方を向いて独白するのをはじめ、難しい用語を“有り得ない方法”で説明してくれたりと、まさにやりたい放題。それらが速射砲のように矢継ぎ早に繰り出されるのだから、退屈するヒマがない。また、その狂騒状態こそがバブルの本質であると喝破しているあたりも痛快だ。

 特に興味深かったのが、ナイーヴな庶民が業者の口車に乗って理不尽な住宅ローンを組まされるくだりと、格付会社が何の迷いも無く不良債権に高ランクの評価を与える場面だ。冒頭に“やっかいなのは何も知らないことではない。実際は知らないのに知っていると思いこむことだ”というマーク・トウェインの言葉が出てくるが、これはいい加減な仕事をしている金融業界の連中に対する批判であると同時に、表層的なトレンドに誤魔化されて危ない橋を渡ってしまう一般ピープルへの警鐘と見るべきだろう。

 主人公達に扮するクリスチャン・ベール、ライアン・ゴズリング、スティーブ・カレルは好調。ベン役のブラッド・ピットの“カッコ付けた役どころ”だけは愉快になれないが(笑)、脇の面子も含めて万全なキャストと言える。思わぬ形で登場するゲストの顔ぶれも面白い。

 なお、本作に対する低い評価が少なくないことは承知している。それらはおおむね“経済ネタに疎いから何が何だか分からない”というものだろう。まあ、どういう感想を持とうが個人の自由なのだが、今どきここに出てくる経済用語が皆目分からず全然聞いたことがないというのは、社会人として恥ずべきことだと思う。もちろん私もすべて理解したとは言い難いが(笑)、鑑賞後の“復習”によって問題のアウトラインぐらいは何とか掴んだつもりだ。

 そして、この映画ではリーマン・ブラザーズをはじめゴールドマン・サックスやメリルリンチ、スタンダード&プアーズなど、各法人が実名で出くるのには感心する。まあ、実録映画なので考えてみればそれも当たり前なのだが、もしも日本で同様のネタを映画で扱うことになれば、そうもいかなくなることは想像に難くない。このあたりはハリウッドに一日の長があると言えよう。

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