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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「グラスホッパー」

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 予想通りの出来。伊坂幸太郎による原作は、私が読んだ彼の小説の中では一番面白い。しかしながら監督が二流の瀧本智行で、脚色が「光の雨」だけの一発屋臭い青島武という、気勢の上がらないスタッフの手による映画化だと知った時点で、先は見えていた。要するに失敗作だということだ。

 ハロウィンの人混みで賑わう10月31日の夜。渋谷ハチ公前のスクランブル交差点に、突然ヤク中の男が運転する暴走車が突っ込んでくる。この事件で婚約者を失った中学教師の鈴木は、何者かによって真犯人がサプリメント販売会社フロイラインの寺原親子であると知らされる。半年後、教師を辞めてフロイラインで働くようになった鈴木は復讐の機会を狙っていた。ところが彼の目の前で寺原ジュニアが殺害されてしまう。どうやら“押し屋”と呼ばれる殺し屋が手を下したらしい。一方、ターゲットを自殺に追い込んで始末するという殺し屋の“鯨”は、余計なこと知りすぎたおかげで“蝉”と名乗る若いナイフ使いに命を狙われるハメになる。

 どこか現実離れした設定と、実体感の無いキャラクターの跳梁跋扈は伊坂作品の特徴だが、これを観る者が納得出来るような世界観に昇華させるためには、堂々と大風呂敷を広げられる海千山千の作り手を呼びつける必要がある。しかし、どう考えても凡庸な瀧本監督は不的確な人選と言わざるを得ない。結果、まるで気勢の上がらない出来に終わっている。

 とにかく、どのモチーフも扱われ方が及び腰なのだ。浮き世離れした登場人物達は、どれも書き割りのような薄っぺらさで、ただ“記号”としての位置付けしかされていない。ちっともキャラが“立って”いないのだ。こんな調子だから、鈴木が真犯人を知るようになったプロセスとか、各殺し屋のポジショニング(?)とか、フロイラインの事業内容とかいった、常道的なドラマツルギーの観点による説明不足の部分が余計にクローズアップされてしまう。

 映像面でも見るべきところはあまりない。アクションシーンも大したことはない。キャストで良かったのは“鯨”を演じる浅野忠信と、鈴木の婚約者に扮した波瑠ぐらいだ。画面の真ん中に鎮座する鈴木役の生田斗真と“蝉”を演じた山田涼介はジャニーズ系だが、無駄にカッコつけた振る舞いは勘弁して欲しかった。寺原会長の石橋蓮司とフロイラインの女幹部の菜々緒に至っては、何かの冗談としか思えない。

 なお、映画の結末は原作とは違う。別に“違ってはイケナイ”と言うつもりは無いが、随分と腑抜けたエンディングであることは確かだ。こんなものしか提示出来ないのならば、最初から映画化する必要は無かった。

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