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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ジャグラー ニューヨーク25時」

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 (原題:Night of The Juggler)79年作品。この頃はいわゆる“ハリウッド製のアクション大作”というのは影を潜めていたように思う。かき入れ時のシーズンにスクリーンを飾るのはSFやアニメーションで、アクション映画が復権するのは80年代末の「ダイ・ハード」を待たねばならなかった。だが一方で、小規模ながらキレの良い活劇編もいくつか公開はされていた。それはたとえばコリン・ヒギンズ監督の「ファール・プレイ」であり、リチャード・T・へフロン監督の「アウトローブルース」であったりするのだが、この映画もそうである。

 元警官でトラック運転手のジョンは、小学生の娘キャシーを学校まで送った直後、彼女の悲鳴を聞く。見ると、キャシーが見知らぬ車に引きずり込まれているではないか。ジョンはその車を追跡するが、途中で事故に遭った彼は、病院に担ぎ込まれてしまう。一方、誘拐犯のソルティックの当初のターゲットは資産家の娘のはずだった。ところが彼は勘違いして、キャシーを攫ってしまったのだ。



 それでも彼女を金持ちの娘だと信じて疑わないソルティックは、多額の身代金を要求する。ジョンは警察に相談するが、相手にしてもらえない。彼は動物登録所の女性所員のマリアの強力を得て、娘を取り返すべく戦いを挑む。ウィリアム・P・マッギバーンの小説「夜の曲芸師」の映画化だ。

 何やら黒澤明監督の「天国と地獄」を思わせるような設定だが、こちらの主人公は単身で悪に立ち向かう。とにかく、スタイリッシュなタッチとは無縁の、猪突猛進型の展開に瞠目させられる。冒頭を飾るカーチェイスも、ゴツゴツとして荒っぽい。そしてジョン自身の出口の見えない焦燥感を象徴するかのように、次から次へと舞い込むトラブルのエゲツなさは、観る側も息苦しくなってくるほどだ。

 加えて終盤の追跡劇の舞台になるのが地下水道だというのだから、圧迫感はかなりのものである。しかし、それだけに全てが解決した時のラストは実に心地良い。監督はテレビでの仕事が多かったロバート・バトラーだが、本作ではまさしく骨太な演出を披露する。

 主演のジェームズ・ブローリンはジョシュ・ブローリンの父親だが、息子以上の男臭さを見せる。犯人役のクリフ・ゴーマン、主人公と対立する警察官を演じるダン・ヘダヤも、良い案配のアクの強さを醸し出している。それにしても、舞台となったサウス・ブロンクス地区における黒人やプエルトリコ人たちの困窮ぶりは、富裕層の阿漕な土地転がしによるところが大きい。理不尽な貧富の差は、この時代から大きく表面化していたのだ。

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