(原題:KINGSMAN:THE SECRET SERVICE )さすがマシュー・ヴォーン監督。期待を裏切らない出来映えである。しかも、米英の“王道”のスパイ映画大作が公開される時期に、極端な“変化球”を放って存在感を見せつけるという気合の入り具合には感服するしかない。今年度屈指の活劇編である。
ロンドンのサヴィル・ロウにある高級紳士服店“キングスマン”の実体は、どこの国にも属さない超エリートスパイ組織。古い歴史を誇り、国際社会のバランサーとして長らく機能していた。ある日、組織の一員が何者かに殺されてしまい、急遽人員を補充する必要性が生じる。凄腕エージェントのハリーは、かつて命を助けてもらった恩人の息子であるエグジーをキングスマンの候補生に抜擢。エグジーは厳しい選抜試験を乗り越えて、正式採用まであと一歩のところに漕ぎ着ける。
その頃、世界的な科学者が次々と失踪する事件が発生。黒幕はアメリカのIT業界の大物ヴァレンタインで、彼は前代未聞の人類抹殺計画を企てていた。果たしてキングスマンはこの陰謀を阻止することが出来るのか。
まず、世界の平和を守っているのが英国紳士だというのが面白い。彼らは高級スーツを身に纏い、常に沈着冷静でスマートに敵を撃破する。大仰な出で立ちや汗臭さとは無縁だ。しかしながら、意外性の塊であるエグジーを加入させることによる組織の活性化も忘れてはいない。おそらくはそのようなやり方で長年維持されてきたのであろう。
対するヴァレンタインは“英国人から見た(お下品な)アメリカの成金”というスタイルを踏襲しているのが面白い。モデルは明らかに“あの人物”だが(笑)、その遣り口は歴史と伝統から離れたところで建国されたアメリカの象徴として設定されている。
コリン・ファース扮するハリーの造形は素晴らしい。ジェントルマンらしい立ち振る舞いで、エゲツないことを平気でやり、しかもそれが全てサマになっている。キレの良いアクションも披露して、ファースとしても役の幅を広げたと言えよう。エグジー役の新鋭タロン・エガートンも健闘している。ヤンチャな若造が紳士として成長していく過程を、無理なく表現。ルックスも良いので人気が出るはずだ。
敵役をサミュエル・L・ジャクソンが楽しそうに演じ、キングスマンの首領として登場するマイケル・ケインも貫禄を見せる。また、義足に刃物を仕込んだ女殺し屋に扮したソフィア・ブテラは儲け役。本家の007からオファーが来そうなキャラクターだ。
活劇場面のアイデアは以前ヴォーン監督が手掛けた「キック・アス」よりも豊富で、先の読めない展開に手に汗を握らされる。そしてクライマックスの“大爆発”には思わず吹き出した(これはすでに石井輝男監督の境地に足を踏み込んでいる)。当然のことながら続編の製作が決定。次はどういう手を使ってくるのか、実に楽しみだ。