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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「浮草」

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 昭和34年作品。小津安二郎監督が珍しく大映で撮った映画で、そのためか所謂“小津スタイル”とは違う展開を見せ、いささか面食らう。まあ悪くない映画であることは確かなのだが、スンナリと腑に落ちないところがあって評価は難しい。

 志摩半島の西南端にある小さな港町に、今年も総勢15人からなる嵐駒十郎一座がやってきた。座長の駒十郎とすみ子は実質的な夫婦関係にあったが、この土地には駒十郎が若い頃に一緒だったお芳が住んでおり、駒十郎は彼女とその息子である清に会うためにこの町でたびたび公演をおこなうのだ。



 駒十郎は清に自分が親であると明かしておらず、伯父だと言い聞かせていた。郵便局に勤めて気質の生活を送っている清に、ドサ回りの芸人風情が父として名乗り出る資格は無いと思っている。お芳と清に駒十郎が親しく接することに嫉妬したすみ子は、妹分の加代をそそのかして清を誘惑させ、せめてもの腹いせにしようとした。最初は清をからかうつもりだった加代だが、やがて本当の恋仲になってしまう。そんな中、一座の番頭役が収益金をすべて奪って雲隠れする。駒十郎は一座を解散する以外には手がなくなった。

 昭和9年に松竹蒲田撮影所で製作した「浮草物語」を、監督自らがリメイクした作品である。登場人物の内面をあまり表に出さずに、それぞれの屈託をスタイリッシュに描出するという、いつもの松竹大船調の小津監督の形式はここでは見当たらない。皆が感情を剥き出しにして、本音をぶつけ合う。中には暴力体質を隠そうともしない者も存在するほどだ。

 実の親であると言い出せない主人公や、ジェラシーでよからぬことを考える愛人といった大時代的なモチーフも含めて、これは大映ドラマの典型であるとも思える。カメラワークこそ小津作品らしいが、舞台になっているのが都会でも北鎌倉の住宅地でもなく海沿いの田舎町なので、どこかサマになっていないような気もする。

 中盤以降のストーリーはかなりドラマティックで、終盤は泣かせるような筋書きになっていくのだが、それ自体は良いとしてもこういうネタならばもっと他に相応しい監督がいたのではないかと思う。

 駒十郎を演じる二代目の中村鴈治郎をはじめ、京マチ子や杉村春子、浦辺粂子、笠智衆といった達者なキャストが顔を揃え、若尾文子と川口浩との共演は青春ドラマみたいな雰囲気を醸し出すのだが、内容がかくの如しでは諸手を挙げて褒め上げる気にはならない。なお、宮川一夫の撮影はさすがで、特に鶏頭が土砂降りの中に映える構図などは唸らされる。

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