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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ラブ&マーシー 終わらないメロディー」

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 (原題:Love & Mercy )中身が薄い。主人公の屈託も、音楽に対するポリシーも、各時代との関連性も、何一つ深く掘り下げられていない。ただすべて表面的に流れていくだけだ。何のために製作されたのか、よく分からない映画である。

 60年代に数々のヒット曲を放ち、一世を風靡したアメリカ西海岸のバンド「ザ・ビーチ・ボーイズ」。その楽曲の多くを手掛けていたのが、中心メンバーであるブライアン・ウィルソンである。バンドの快進撃の中にあって彼はそれまでのサウンドに飽き足らずに新たな展開を模索するが、そのプレッシャーと周囲からの多大な期待に耐えられず、アルコールとドラッグに依存してしまう。

 それから20年あまりが経った80年代、低迷の中にあったブライアンは偶然立ち寄ったカーディーラーで、運命の出会いを果たす。その相手は聡明な女性メリンダだった。彼女こそ自分を理解し支えてくれると確信した彼に、再び音楽に向き合う意欲がわいてくる。

 有名ミュージシャンを題材にした映画ということで、全編に楽曲が鳴り響いてドラマとシンクロしていくのだろうと予想したら違った。それどころか、音楽の扱い方は呆れるほど手が抜かれている。ならば他に何があるのかというと、これが見事なほど何もない。60年代には脚光を浴び、80年代になったら落ちぶれたが、好いた女と出会って立ち直ったという、捻りも工夫も無い“お話”が漫然と提示されるのみ。

 そもそもブライアン・ウィルソンというのは、ビートルズのメンバーでさえライバル視した天才だ。常人が及びもつかないその異能ぶりを全面展開させないで、いったい何のための映画化か。

 映画の中では60年代と80年代とが交互に描かれるが、この2つのパートは互いに連携が取れているとは言い難い。それは、両者の間に存在する70年代という時期をスッ飛ばしているからだろう。彼が堕落していった様子を丹念に取り上げないから、全体として要領を得ない出来になったとも思える。また、ブライアンの内面に大きな影響を与えていたと思われる父親の描き方も通り一遍だし、兄弟との関係もスルーしている。

 主人公の若い頃を演じるポール・ダノ、中年期を演じるジョン・キューザック、共に精彩に欠ける。メリンダに扮するエリザベス・バンクスも魅力なし。ビル・ポーラッドの演出は凡庸で、コクもキレも無い。このような映画をわざわざ劇場で観るよりも、自宅でビーチ・ボーイズの楽曲でも聴いていた方が数段マシだろう。それにしても「グッド・ヴァイブレーション」は名曲だ。これを作った人間は(良い意味で)常軌を逸している。映画でもそのレコーディング風景が紹介されているが、残念ながらまるで物足りない。

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