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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ぼんち」

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 昭和34年作品。別に深い内容があるシャシンではないが、ノリまくる演出と豪華キャストの揃い踏みで楽しく鑑賞できる。ベストセラー作家山崎豊子の原作を得て、贅沢なスタッフを集めて製作された文芸大作。当時の大映の絶大な力が垣間見える。

 昭和初期、船場の老舗の足袋問屋河内屋の一人息子である喜久治は、祖母と母の強引な勧めによって砂糖問屋の娘・弘子を嫁にもらう。だが、嫁と姑とのソリが合わず、早々に離縁。結婚に嫌気がさした喜久治は、新町の花街に入り浸るようになる。芸者のぽん太をはじめ、次々に妾を作って子供をこさえた彼だが、そんな時に父が死に、喜久治は五代目の河内屋の若旦那におさまった。



 世の中は日中戦争を契機に不景気の一途を辿り、やがて大阪の町も空襲にさらされるようになる。戦争が終わった頃には、蔵一つを残し河内屋の財産はほとんど消失。そこに祖母と母および付き合っていた女達が大挙して押しかける。喜久治は金庫に残っていた金を出して等分にし、彼女達に分け与えるのであった。昭和30年代に入り、下町で慎ましく暮らすようになった50歳代の喜久治だが、放蕩を“卒業”しても商売に対する夢を忘れず、世話になった人々への義理立ても欠かさない、今でも根っからの“ボンボン”であった。

 周囲からのプレッシャーも軽くかわし、世の中をヒョイヒョイと渡っていく喜久治のキャラクター設定が出色だ。パッと見た感じでは“女性陣に翻弄されているダメ男”の話のように思われるが、実はそんな彼に夢中になって適当にあしらわれているのは彼女達の方だ。

 いくら徒党を組んで明け透けにしゃべりまくっても、そんな境遇に陥ったのはうっかり喜久治に惚れてしまった自己責任。女性優位のように見せかけて、シッカリと男の映画にしているあたり、市川崑監督のクセ者ぶりがよく現れている。主演の市川雷蔵は本作では絶好調。絵に描いたような軟派な二枚目ながら、軽佻浮薄な生き方にも筋を通す好漢を味のあるパフォーマンスで見せきっている。

 ぽん太役の若尾文子をはじめ、越路吹雪、草笛光子、中村玉緒、京マチ子と、主役の周りに配置された顔ぶれは超デラックス。そして、山田五十鈴と毛利菊枝の母&祖母はまるでモンスターだ(笑)。宮川一夫のカメラや芥川也寸志の音楽も言うことなしで、市川監督のこの頃のフィルモグラフィの中では間違いなく上位にランクされる快作だ。

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