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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「人生スイッチ」

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 (原題:Relatos salvajes)とても楽しめた。まさにブラック・コメディの快作だ。本国アルゼンチンでは、何と歴代ナンバー1ヒットを記録したらしい。コアな映画ファンは面白がって観るだろうが、とても一般ウケはしないと思われる本作を大々的に受け入れてくれる彼の国の状況は、とても興味深いものがある。

 6つのパートから成るオムニバス作品だが、それぞれ話が繋がっているわけではない。しかし、製作スタンスは一貫している。それは、ふとしたきっかけで人生の不幸スイッチがオンに入ってしまった哀れな人々を笑い飛ばそうというものだ。実に不謹慎な主題だが、この下世話な劣情めいたものがエンタテインメントの大きなモチーフに成り得ると見切った作者の思い切りの良さには感服する。

 第一話は、飛行機に乗ったある男が近くの席の美女に話しかけているうちに、話の中に出てきたある男のことを乗客全部が知っていたという事態に気付くが、もう“時すでに遅し”の状況だったというエゲツないストーリー。短い時間でキレの良い展開を見せ、ツカミはOK。あとはこの調子で歯切れ良く各エピソードが綴られていく。

 個人的に面白いと思ったのは第三話。田舎道を運転中にノロい前車を追い抜いた男が思わぬトラブルに巻き込まれるという筋書きだが、スピルバーグの「激突!」の悪意に満ちたリメイクとも言えるもので、先の読めないプロットと思いがけない結末により、強い印象を残す。

 さらに、血生臭い展開の釣瓶打ちかと思わせて、第六話だけは変化球を持ってくるあたりも見上げたものだ。親族や友人・知人がこぞって結婚を祝う披露宴の席で、花嫁は花婿がかつての彼の浮気相手の女と親しそうに話している現場を目撃して逆上。会場を抜け出してやけっぱちな行動に走る彼女と、なだめようとして却って事態を深刻化させてしまう花婿により、あたりは修羅場となる。製作を担当したペドロ・アルモドヴァルのカラーが強いパートだとは思うが、明らかにアルモドヴァル作品よりも面白い。

 これが長編映画3作目となるというアルゼンチンの若手ダミアン・ジフロンの演出は実に達者で、話の運びに淀みが無く、しかもプロットの“積み残し”も見当たらない。今後期待出来る人材だと言えるだろう。

 キャストは「瞳の奥の秘密」に出ていたリカルド・ダリン以外は知らない顔ぶれだが、たぶん本国では手練れの演技者だと思われる者ばかりで、皆良好なパフォーマンスを披露している。第87回米アカデミー賞ではアルゼンチン映画として外国語映画賞にもノミネートされた本作、観て損は無いほどのインパクトを提供している。

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