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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「龍三と七人の子分たち」

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 前半はまあ退屈せずに観ていられたが、中盤以降は完全に腰砕け。この設定ならばもっと面白くなって然るべきだが、全然そうならない。北野武は原案と脚本(第一稿)だけ担当して、演出やシナリオの練り上げは他の者にやらせた方が良かった。

 かつてはヤクザの組長としてその筋では名の通った存在であった龍三だが、歳を取った今では息子夫婦から煙たがられながらも静かに隠退生活を送っている。そんなある日、彼は新手の振り込め詐欺に引っ掛かりそうになる。怒った龍三は昔の仲間を集めて、人々を騙して金を巻き上げる若造どもを成敗しようと立ち上がる。

 いくら昔は威勢の良いヤクザだったとはいえ、今では全員がジジイだ。手元や足元が覚束なかったり、すでにボケが入っている者もいて、龍三が思う通りに動いてはくれない。このあたりをネタにしたギャグはけっこう笑える。特に仕込み杖を今やシケモク拾いにしか使わない奴や、自分のヒゲもロクに剃れなくなった往年の“カミソリの達人”なんかはかなりウケた。

 ところが、映画はそんな老人達が披露する“一発芸”の羅列から少しも出ることはない。いざ敵の首魁と対峙することになっても、くだらない内輪ネタに終始するばかりで、何ら映画的興趣に結びつかない。

 今回主人公達が相対するのは、従来の“親分&子分”という図式がまったく通用しなくなったニュータイプのゴロツキ集団だということだが、どう見たってただのチンピラ連中だ。昔と違うのは、龍三達がヤクザの御旗を振りかざしても動じないところぐらいで、ちっとも目新しさは無い。もっと今風のワルに相応しい得体の知れない不気味さを漂わせた方が盛り上がったと思うのだが、たけし自身が“古い世代”に属するようになってしまった現在、それは無理な注文だったかもしれない。

 そして終盤に延々と展開する活劇場面のショボさは致命的で、本来この監督はこういう大掛かりなアクションシーンを得意とはしていないだけに、違和感ばかりが残る。さらに主要登場人物が途中で非業の最期を遂げるのだが、この部分が映画のカラーから浮いているのにも閉口した。

 主演の藤竜也をはじめ、近藤正臣、中尾彬、品川徹、樋浦勉、伊藤幸純、吉澤健、小野寺昭と加齢臭よりも存在感が前面に出ているような面子を集めていながら一発ギャグ以外に見せ場を作れないのは失態だろう。安田顕や矢島健一の悪役も凄味が全然無いし、勝村政信や萬田久子といった脇の顔ぶれ、そして刑事役で出てくるピートたけしも、ハッキリ言ってどうでもいい。考えてみれば、北野武は監督として「座頭市」を最後に以来ロクな作品を撮っていない。才能の枯渇が懸念されるところである。

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