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アナログレコードの復権について。

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 福岡市中央区天神にあるTOWER RECORDSの福岡パルコ店が2015年3月にリニューアル・オープンしたが、その片隅にアナログレコードのコーナーがセッティングされている。懐古趣味のオールドファンの集客を狙った措置だと思ったら、そうではない。けっこう若年層が目立つのだ。傍らにはレコードプレーヤーが実装展示されているが、ぐるぐる回るレコード盤を興味深そうに眺めている若いカップルもいる。

 オーディオ業界では今ハイレゾ音源が持て囃されているが(もっとも、勝手に煽っているのは送り手側の方で、消費者側の反応はそれほどでもない)、無視出来ないトレンドになりつつあるのは、一時は絶滅すると言われていたアナログレコードの方なのだ。

 米国では2014年のアナログレコードの売上げが前年比49%アップの800万枚に回復したというニュースが話題になった。日本も同年には、アナログレコードの生産量では40万枚を超え、前年比66%アップとなっている。数少ないプレス工場はフル稼働して需要に応えているらしい。


 レコード復権の理由として、よく“アナログレコードはCDよりも音が良いから”とか“アナログレコードの音はデジタル音源と違い、温かみがあるから”とかいう説を見かけるが、それらはピント外れだ。再生方法が異なるメディア同士で音の優劣を論じるのはナンセンス。もちろん、圧縮音源とか昔のMDみたいに明らかに低スペックのものとCD等とを比べるのならば話は別だが、総体的にはアナログレコードとCDとの間に大きな定格の違いがあるわけでもない。あるのは個々のソフト及び再生機器のクォリティの違いだけである。

 ましてや“アナログレコードの音はCD等より温かい”という意見は、情緒的に過ぎる。そう感じるリスナーがいるとすれば、質の悪いCDプレーヤー(及びシステム)しか使ったことがないのか、あるいは低レベルの録音のソフトしか聴いていないのか、そのいずれか(あるいは両方)だろう。

 レコードが見直されてきた最大の理由は、やはりその魅力的な形状とユーザーインターフェースにあると思う。大きなジャケットはインテリアとして使えるほど見栄えが良く、取り扱いやセッティングには注意を払う必要があるが、それだけ“物”としての存在感を強くアピールする。そしてレコード針が音溝をトレースする様子、つまりは音源を取り出している“現場”を実際に目撃できるという、他のメディアには無い特性を備えている。

 CDが隆盛になる前には、音楽ファンは誰しも自分が初めて買ったレコードのことをしっかりと覚えていたはずだ。だが、最初に購入したCDについては印象が薄く、ましてや初めてネットからダウンロードした楽曲のことなんか記憶に残っているかどうかも怪しいというケースが多いのではないだろうか。確かにネット経由で音源を入手するのは手軽だし、再生時の簡便性も捨てがたい。しかし、音楽はただ聴ければよいというものではなく、そこに幾ばくかの趣味性が介在していれば、聴く喜びはより大きくなる。

 注目すべきは、このアナログ復権の動きが送り手側ではなく、主に消費者側やミュージシャンの側から起こったということだ。メーカーサイドからのお仕着せのムーヴメントではないということは、息の長いトレンドになる可能性が高いと言えるのだ。



 オーディオ機器を供給する側としても、この動きを見逃す手はない。間髪を入れずに商品ラインナップの充実に努めるべぎだろう。そして重要なのは、いたずらに高額でマニアックな路線の製品を前面に出さないことだ。くだんのレコード売場に並べられていたプレーヤーは、ION AUDIO Archive LPという実売1万円程度のものである。ステレオ・スピーカーを搭載したオールインワン・タイプで、大昔のモジュラー型プレーヤー思い起こさせるが、当然ながら音は“価格相応”で、高音質は望めない。

 しかし、だからといってKRONOSだのTechDASだのといった(一般ピープルから見れば)おどろおどろしい外観を持つハイエンド機(およびそれに類するもの)をプッシュしたら、せっかくレコードに興味を持ってくれた新しいリスナーも一斉に逃げてしまう。今回のブームが“形から入った”ようなものである以上、新たに投入する製品もエクステリアに配慮して欲しい。

 昔、デンマークのB&O社がリリースしていたようなスタイリッシュなモデルや、TechnicsのSL-10とかDIATONEのLT-5Vのようなスペース・ユーティリティに優れた製品、また木の香りが漂ってくるようなレトロな外観を持ったプレーヤーなど、いろいろとプランは考えられる。そして価格を高くしないことが重要なポイントだ。CDが音楽ソフトの主流になる前は、4,5万円も出せば十分使えるレコードプレーヤーが手に入った。もちろん現時点ではそのプライスで製品化することは難しいが、少なくとも“マトモな音を聴きたければ最低20万円はお金を掛けるべきだ”と言わんばかりの品揃えになることだけは避けるべきだろう。

 また大切なことは、良質なアナログの音を聴かせてくれる場を設定することだろう。いくらレコードの形状が魅力的でも、CDやハイレゾ音源に負けない音質を持っていることをPRしないとユーザー層は広がらない。たとえば、くだんのレコード売場の隣に本格的なオーディオシステムを配備して実演するようなことをやっても良いと思う。

 もちろん、いくらレコード復権の動きがあるといっても、音楽ソフト全体に占める割合はまだわずかだ。このマーケットを広げて商機を掴めるかどうかは、送り手側の努力に係っている。今後も注視していきたい。

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