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“ハイレゾ対応”というキャッチフレーズ

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 先日、ショップでSONYのスピーカーSS-HA1を聴いてみた。プレーヤーとアンプも同社の製品であったが、音の傾向自体は従来のSONYのシステムとさほど変化はない。つまりは、聴感上の物理特性(みたいなもの)を取り敢えず整えてはいるが、明るさも艶も潤いもない無愛想なサウンドだ。変にメカニカルなデザインも含めて、私は評価出来ない。

 だが、出てくる音よりも興味を惹かれたのが、この製品が“ハイレゾ対応”というキャッチフレーズで売られていることだ。



 以前にも書いたが、ハイレゾというのは従来型CDよりも優れた定格を持つ“音源”のことを指す。“音源”である以上、それに対応する機器というのは“音源”に近い部分、つまりはデジタル信号をアナログに変換する装置(DAC)およびその周辺のデバイスだと考えるのが普通だ。しかし、音の出口であるスピーカーがハイレゾに“対応”しているのというのは意味が分からない。そこでSONYのホームページを覗いてみたら、開発担当者のインタビュー記事が載っていた。以下はその大意抜粋である。

|従来のスピーカーでは音のスイートスポットが狭いため、少し頭を
|動かしただけで、ハイレゾの良さが味わえなくなってしまいます。
|さらに問題なのはセッティングのシビアさです。オーディオマニア
|の方であればルームチューンなどで部屋を改造して音の反射や家具
|などの振動を調整したりするのですが、一般の方にはそんな知識・
|経験はまずありません。

|つまり幅広く自宅で気軽にハイレゾの良さを楽しんでいただくため
|には、純粋に音質を向上させるだけでなく、スイートスポットの狭
|さの問題やセッティングの問題、及び機器の相性の問題のすべてを
|解決する必要がありました。

 私はこれを読んで呆れてしまった。つまり、SONYの考える“ハイレゾ対応スピーカー”というのは(1)指向性がシビアではなく(2)セッティングが楽で(3)アンプ類との相性を考えずに済む製品なのだという。ハッキリ言ってそれは使い勝手に属する事柄であり、ハイレゾ音源の特性に準拠したことでも何でもない。関係のない項目を、あたかもそれが本筋であるかのように謳っているのは、ペテンに近いのではないか。

 そもそも“指向性の緩いスピーカー”など以前から(無指向性型も含めて)市場に流通していたし、大雑把なセッティングでも破綻の無い音で鳴り、繋ぐアンプを比較的選ばないスピーカーも存在していた。今回のSONYのやり方は、そういう既存の方法論を踏襲しているだけであり、何らハイレゾ音源とは特定的にリンクしていない。



 この“ハイレゾ対応”というフレーズを聞いて思い出すのが、CDが登場した80年代前半によく目にした“デジタル対応”という言葉である。当時はまるで“デジタル対応”のステッカーが貼っていないスピーカーやアンプではCDが鳴らせないような風潮があったが、実際にはどんな古いシステムでも、CDプレーヤーを導入して結線すればCDに入っている音は出たのだ。

 要するに“デジタル対応”なる謳い文句は、従来からのアナログ音源とは違うデジタルのソースであるCDが世に出たことにより、それに便乗して他のコンポーネントも抱き合わせで売ってしまおうという、業界側の姑息な商法に過ぎなかった。

 今回の“ハイレゾ対応”も似たようなものである。以前からのシステムであっても、楽曲をダウンロードしてDACをアンプにつなげば、立派にハイレゾ音源は再生できるのだ。“ハイレゾ対応”のスピーカーなどをあえて新たに買う必要もない。

 貧すれば鈍するのたとえ通り、業績が思わしくないSONYは、30年前に役割を終えたようなマーケティングを物置から引っ張り出し、何とか再利用しようと躍起になっている。だが今は昔と違ってオーディオは斜陽化し、ハイレゾ音源自体のアピール度も低い。早晩、この場当たり的な売り方はユーザーから足元を見られ、破綻することだろう。

 “従来型スピーカーではハイレゾの良さが味わえない”と言わんばかりの高圧的な態度よりも、“ハイレゾを含めたすべての音源のアキュレートな再生を目指す”というような正攻法のスタンスを取り、地道な商品展開に励んだ方が中長期的にはプラスになるに決まっている。今のSONY(及びその他の国内メーカー)にそれが出来るかどうかは大いに疑問だが、そこから始めるしか方策は無い。とにかく“ハイレゾ対応”などという欺瞞的なキャッチフレーズは、ゴミ箱に捨ててもらいたい。

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