(原題:Still Life)とても感銘を受けた。何より、主人公の生き方がカッコいい。人間の尊厳に敬意を払い、常に真摯に行動を積み上げていく。たとえ派手さは無く寡黙ではあっても、誰かはちゃんと認めてくれる。こういう姿勢で人生を送れたら、まさに悔いは無い。
ロンドンに住む公務員、ジョン・メイは地区センターで民生係をしている。彼の仕事は、地域内で孤独死した人の葬儀を行うことだ。出来うる限り身寄りを探し、もしも見つからなければ自分が唯一の参列者となる。さらに遺品類から宗派を調べ、斎場を決め、葬儀で流す音楽を考え、空いている墓地を用意して埋葬する。すでに40歳は超えているが、いまだ独身。いつも決まった食事をし、机の上の備品の置き方にも気を配る。
ある日、彼は向かいのアパートに住んでいた老人が一人で死んだことを知る。近くにいながら何も気付けなかった自分に負い目を感じたジョンは、いつにもましてその老人の生い立ちを調べることに集中する。だが、そんな熱心すぎる仕事ぶりを疎ましく思っていた上司は、彼にリストラを言い渡す。ジョンはせめて今取り組んでいるこの案件だけは成就させてくれるようにと依頼し、最後の職務に励む。
ウベルト・パゾリーニ監督は小津安二郎監督作品に影響を受けたと言うが、内容は小津作品とは正反対だ。人は全て孤独であることを洗練されたタッチで描いた小津に対し、本作は真に孤独な人間など存在しないと強く訴える。ジョンは、担当した者達が残した写真を仕事が完了した後に持ち帰り、アルバムに貼る。友人も恋人もいない彼にとっての後ろ向きな代替行為のように見えて、実は他者との絆を再確認する能動的な行動であり、そこには暗さは無い。
そんな彼が、最後の仕事の途中で心動かされる相手と出会う。モノクロームだった彼の人生が、ほんのりと赤みがさす様子を描く、このあたりの扱い方は見事だ。それに続く終盤の急展開、および後々までの語り草になるであろう驚くべきラストシーンまで、見方によっては乱暴とも思える持って行き方も、それまでの密度が濃くなおかつ抑制の効いたタッチにより絵空事にならない。
パゾリーニの演出は淡々としていながら随所にユーモアを織り交ぜ、飽きさせない。主演のエディ・マーサンはまさに名演と言うしかなく、その一挙手一投足に主人公のストイックな人生を表現させていて圧巻だ。相手役のジョアンヌ・フロガットも良い味を出している。
パゾリーニは第70回ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門にて監督賞を受賞。ステファーノ・ファリベーネのカメラによる彩度を落とした静謐な映像や、レイチェル・ポートマンの効果的な音楽も印象に残り、これは本年度のヨーロッパ映画を代表する秀作と言って良いだろう。