主演の渋谷すばるに尽きる。彼が関ジャニ∞のメンバーであることを今回初めて知ったが、別にこのグループに興味があるわけでもない(知っているメンバーは他に「ちょんまげぷりん」に出ていた錦戸亮ぐらい)。しかし、ジャニーズのタレントとはとても思えない、全身から滲み出るガラの悪さ。さらに、これもジャニーズのタレントとは信じられないほどの(笑)歌の上手さ。いずれにしろ、かなりの存在感だ。彼が今後コンスタントに映画に出られるのかどうか分からないが、面白い素材であることは間違いないだろう。
刑期を終えて出所したばかりの若い男は、以前の仲間と会った後、突然何者かに襲われて頭を強打する。目覚めたときには記憶喪失になっていた彼は、公園で行われていたバンド「赤犬」のライブにフラフラと迷い込み、圧巻の歌唱力を披露する。「赤犬」のマネージャーのカスミは彼に興味を抱くが、男は歌うこと以外何も覚えていない。カスミは彼を“ポチ男”と名付け、貸しスタジオの仕事を手伝わせると共に、事故に遭って休養中のバンドのヴォーカリストの代わりに迎えようとする。だが“ポチ男”の過去は、まさに忘れてしまいたいほどに辛いものだった。
正直言って、「リンダ リンダ リンダ」(2005年)以来久々に音楽ものを手掛けた山下敦弘の監督作としては、それほど上出来とは言い難い。昔“ポチ男”がやったことは、いくら懲役を終えたとはいえ許されることではない。バンド活動ぐらいでは禊ぎは済まないのだ。もちろん、かつての身内は冷たい態度を見せるが、全体的に突っ込みは鈍い。終盤の“落とし前”の付け方にしても、中途半端だ。
カスミにしても学業を諦めて場末のスタジオの経営をやらざるを得ない境遇に対しては大きな屈託があるはずだが、それを深く掘り下げていないのは不満が残る。だが、それほど本作を嫌いになれないのは、前述の渋谷のパフォーマンスと、舞台になった大阪の下街の風情、そして演奏シーンの非凡さにある。
「赤犬」という(実在の)バンドはキャラが濃く、かなりの実力派。ノスタルジックな楽曲を、ライブハウスが揺れるようなパワーで押しまくる。一度生で観てみたいものだ。余談だが、メンバーは監督と同じ大阪芸術大学の卒業生らしい。
カスミに扮する二階堂ふみは今回も達者な演技を見せ、意味も無くセーラー服姿を披露するというサービスショット(?)まである。鈴木紗理奈や川原克己、松岡依都美、二宮弘子といった脇の面子も良い。特に店主・ホームレス・“ポチ男”の父などの四役を担当した康すおんの役者ぶりは光る。