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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ミーティング・ヴィーナス」

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 (原題:MEETING VENUS )91年イギリス作品。音楽を題材にした映画では、上質の部類に入る。「メフィスト」などで演出力を発揮したイシュトヴァーン・サボー監督の才気がみなぎる作品だ。

ハンガリー人の指揮者ゾルタン・サントーは、オペラ座で上演されるワーグナーの楽劇「タンホイザー」を指揮する機会を得、意気揚々とパリに乗り込んできた。ところがプロデューサー達はつまらない権力争いの真っ最中で、地元キャストの組合はストライキを敢行。世界各国から招集した歌手達の間でもいさかいが絶えない。

特にスウェーデンからやってきた世界的プリマドンナのカーリン・アンダーソンは、東欧のあまり名の知られていない指揮者なんか眼中に無い。何とか我慢していたゾルタンだが、パーティ会場でとうとう堪忍袋の緒が切れる。しかし“雨降って地固まる”の例え通り、音楽に対する真摯な姿勢を見せた彼に皆が従うようになり、何とゾルタンとカーリンとの間には恋心が生まれたりするのだ。

もちろん、題名の「ヴィーナス」とは「タンホイザー」に出てくる悪徳と快楽の女神の暗喩である。彼女は周囲を引っかき回すが、個々の屈託など音楽がもたらす素晴らしい愉悦の前では取るに足らないものなのだ。二人が各国民をコケにする歌詞を即興で作って、鬱憤をぶちまけてストレス解消するあたりはケッ作。

オペラの内幕と“本編”とを平行して描く手法はフランコ・ゼフィレッリ監督あたりが得意としていたが、サボー監督はゼフィレッリみたいな艶っぽいエクステリアを用意しない代わりに、オペラを作り上げる人々と世界の有り様とを真面目にクロスさせてみせる。

ゾルタンに扮するニエル・アレストラップ、カーリンを演じるグレン・クロース、共に良い仕事をしている。鳴り響くワーグナーの音楽と、ラホス・コルタイのカメラによる、奥行きのある映像も見逃せない。またクロースのオペラの吹き替えはキリ・テ・カナワが担当しており、そちらも興味深い。

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