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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ジャッジ 裁かれる判事」

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 (原題:THE JUDGE )連続TVドラマのダイジェスト版みたいな印象を受ける。作劇のリズムには乱れはなく、話はスムーズに進んでストレスは感じない。しかしながら深い感銘とか熱い情念とか、そういう類のインパクトは皆無である。ヒマ潰しにテレビ画面越しで向き合うには良いのかもしれないが、劇場で対峙するには物足りない内容だ。

 シカゴで弁護士事務所を構えるハンクは敏腕だが、社会正義よりも銭勘定を重視するスタンスで周囲の反感を買っている。私生活でもカミさんとの離婚協議中で、何かとストレスのたまる毎日だ。ある日、母親の訃報を受け、葬式のためにインディアナ州の田舎町にある実家に帰る。そこには地方判事で口の悪い父親ジョセフと、うだつの上がらない兄、そして精神薄弱者の弟がいて、久しぶりに会ってもうんざりするばかり。

 特に父親とは長年の絶縁状態にあり、今回も口論になったため怒って早々に故郷を後にしようとするが、父親がひき逃げ事件の容疑者になったことを知らされ、やむを得ず弁護を引き受けることにする。42年間も判事として法廷で正義を説いてきた父親が犯人であるはずがないと思うハンクだが、集められた証拠はすべてがジョセフの有罪を示していた。やがてハンクは、父親が抱える秘密を知ることになる。

 題名から判断して法廷ものだと思っていたら、ホームドラマだったのには拍子抜けした。それでも丁寧に作られているのは確かだが、果たしてこの状況で法廷外の話に長々と言及する必要があったのか、すこぶる疑問だ。若い頃はヤンチャが過ぎて父親とは対立していたハンクが、どうして今は同じ法曹界に身を置いているのかよく分からないと思っていたら、体調を崩したジョセフを介護するハンクの姿を映し出している間にそのことはウヤムヤになってしまう。

 さらにはハンクが幼馴染の女友達と良い雰囲気になったりとか、高校時代はプロも注目する野球部員だった兄が夢を諦めた経緯とか、本筋とはあまり関係のないことが延々と語られることには違和感を覚える。おかげで上映時間が2時間半にもなってしまった。かと思えば、肝心のひき逃げ事件の真相に関しては大したプロットは付与されておらず、拍子抜けだ。もっと思い切った展開があっても良かったのではないか。

 この映画は主演のロバート・ダウニー・Jr.が設立した製作会社の第一弾として作られているが、その割には自身のワンマン映画にはなっておらず、父親役のロバート・デュヴァル(本作でアカデミー助演男優賞候補になっている)をはじめ脇の面子にも配慮はしている。しかし、そのために話が総花的になってしまったことは否めない。

 とはいえデイヴィッド・ドブキンの演出には大きな破綻はないし、ビリー・ボブ・ソーントンやヴェラ・ファーミガらの好演もあり、ヤヌス・カミンスキーのカメラによる清澄な映像が印象的で、観た後はそれなりの満足感はある。ただ、劇場を後にすると記憶から消えるのも早いことは確かだ。

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