(原題:Il Mestiere delle armi)2001年イタリア作品。格調高い歴史劇だ。本国の映画祭で9部門を制覇したというが、それも頷けるほど。16世紀のイタリアがフランスとドイツ(神聖ローマ帝国)との抗争に巻き込まれ蹂躙されていく様子を、教皇軍の騎兵隊隊長ジョヴァンニ・デ・メディチの死を通して描く。
激しい戦闘シーンや諸侯の虚々実々の駆け引きなど、ハリウッドで映画化されてもおかしくないようなネタが満載だが、そこは「木靴の樹」や「聖なる酔っぱらいの伝説」などの傑作をモノにしたエルマンノ・オルミ監督。早々と視点を主人公一人に収斂させ、歴史の中で翻弄される人間の姿をリアリスティックかつ共感を込めて描いている。
映画の後半は重傷を負って床に臥せる主人公を定点観測のごとく延々と映し出すが、いくらイタリア史に名を残した勇猛な騎士とはいえ、死ぬときは自己の甘やかな思い出と悔恨の情にとらわれる“弱い個人”に過ぎないことを切々と訴える。また逆に言えば、そんな個々人の生き様の積み重ねこそが“歴史”を形成しているのかもしれない。
そして、映画は銃や大砲といった新兵器の登場により、戦争の担い手が貴族や職業軍人たちに限定された時代から国同士の総力戦へと移行する歴史の転換点(中世の終わり)を描いている点も興味深い。主演のクリスト・ジフコフは好調で、悩める若い武将を違和感なく表現している。
史実では彼の最後の戦いは11月末としているにもかかわらず、画面は真冬だ。これは当時のヨーロッパが“小氷河期”にあったことを示しているが、それがまた作風にマッチしている(ロケ地はブルガリアらしい)。ファビオ・ヴァッキによる現代音楽も抜群の効果だ。