(原題:白日烟火)何じゃこりゃ。まるで映画の体を成してしない。第64回ベルリン国際映画祭で金熊賞と最優秀男優賞を得た作品だが、主要アワードの受賞作が必ずしも良い映画であるとは限らないものの、この出来は酷すぎる。審査員の目が曇っていたか、あるいは別に“何らかの働きかけ”が存在していたと思われても仕方がない。
1999年、中国の華北地方で男の切断された死体が15箇所の石炭工場で次々と発見される。所轄の刑事ジャンとそのチームが捜査を担当するが、怪しいと思われたヤクザの兄弟が逮捕時の銃撃戦で死亡し、ジャンも重傷を負う。事件が解決しないまま5年の歳月が流れ、ジャンは警察を辞めて警備員として暮らしていたが、似た手口の事件がまた起こる。
彼は勝手に調査を開始するが、被害者はいずれも殺される前にウーという未亡人と親密な関係にあったことを知り、彼女に接触する。だが、会うたびに彼もウーに惹かれていくのであった。
設定は典型的なハードボイルド劇でそれ自体は悪くないのだが、ドラマ運びと語り口がグダグダで話にならない。第一、ジャンがウーにのめり込んでいくプロセスが十分に描かれていないのだ。キレイな女の周囲をうろついていたら、いつの間にか懇ろになっていたという話では説得力ゼロ。その代わりに思わせぶりな“心象風景”みたいなものが多数挿入されるが、鬱陶しいだけだ。元警察官とはいえ今では民間人に過ぎない彼が捜査に首を突っ込んでくるというのも無理がある。
考えてみればプロットは意外性はある。だが、それを全く感じさせないモタモタした展開では、アピール度は限りなく低い。余計なシークエンスや、不要と思われる登場人物が多いのも興ざめだ。ストーリーは何らカタルシスの無いまま進み、ラストなんか作劇を放り出したような体たらく。
同じ中国製の犯罪ドラマではジャ・ジャンクー監督の「罪の手ざわり」等には遠く及ばず、場違いなエンディングテーマが流れたまま、観る側は完全に置いて行かれる。これが長編監督3作目になるというディアオ・イーナンの仕事ぶりは、中途半端に“映像派”を気取っているようで全然サマにならない。
主演のリャオ・ファンはハッキリ言って“ただのオッサン”にしか見えず、何を表現したいのか分からない演出も相まって、ほとんど印象に残らない。ウー役のグイ・ルンメイは相変わらず魅力的ではあるが、上質すぎるルックスがドラマの雰囲気から浮いている。他の出演者に関してはコメントもしたくない。唯一記憶に残ったのは、中国の地方都市のあまりにもゴミゴミとした環境だ。こんな状況では先進国への脱皮は夢のまた夢だろう。