今回はプログレッシブ・ロック三題。まず紹介するのは、このジャンルの大御所であるピンク・フロイドの最新作にして最終作であるという「The Endless River」(邦題は「永遠/TOWA」)。前作「The Division Bell」(邦題は「対/TSUI」)以来20年ぶりのアルバムで、全英ヒットチャート1位。全米でも3位を獲得している。
しかしながら、本作は2008年に他界したオリジナルメンバーであるリック・ライトの追悼盤としての性格を持ち、彼が参加していた前のアルバム向けの未収録セッション(約20時間)を基に構成されているため、純粋な意味でのニュー・アルバムではない。「狂気」や「炎」といった突出した過去の作品とは違い、どちらかといえば「モア」や「雲の影」等の映画のサントラ盤と似たような(ライトな)性格を持っている。
インストゥルメンタル曲中心で、多分にアンビエント的である点がこれまで彼らのナンバーを聴き込んできたリスナーにとって不満の出るところであろうが、これはこれでレベルの高いサウンドだ。プログレッシブ・ロックのスタイルを踏襲しながら、これだけ洗練された音を出せるのは、このバンド以外に存在しない。リック・ライトのキーボードによる蠱惑的な空気感の醸成と、デイヴィッド・ギルモアの天翔けるギター、そしてニック・メイソンのドラムスによる確かなリズム・ラインが織りなす世界は、ピンク・フロイド・サウンドの一つの到達点を垣間見ることができる。
録音はオーディオマニア御用達だった「狂気」や「ザ・ウォール」には及ばないが、凡百のポップス系ディスクとは明らかに次元が違う。たとえプログレッシブ・ロックに興味がない聴き手でも、このアルバムは極上のヒーリング・ミュージックとして受け入れられよう。
プログレッシブ・ロックの全盛期は70年代から80年代初頭であり、現時点ではすでに“終わった”ジャンルだと思っている音楽ファンも少なくないとは思うが、90年代以降もこの世界に参入してくるバンドもけっこう存在している。そのひとつが90年に英国リヴァプールで結成されたアナシマ(Anathema)だ。購入したのは2012年にリリースされた9枚目のアルバム「ウェザー・システム」である。
タイプとしてはスケール感のあるシンフォニック・ロックだが、とにかくメロディ・ラインが美しい。男性と女性のツイン・ヴォーカルの形式を採用しており、その絡みが絶妙だ。マイルドな展開でBGM的に聴き流せる面もあるが、時折パワフルでキレの良いフレーズも現れ、飽きることがない。録音もロック系としては満足できるレベルには達している。
聞けばこのバンドは、デビュー当時にはゴシック・メタルにカテゴライズされるようなスタイルを持っていたという。どのような経緯で今のプログレッシブ路線に転じたのか分からないが、現時点でこれだけのパフォーマンスを見せてくれるのだから、その進路変更は成功したと言っていいだろう。本作に続くアルバムも出ているようで、機会があればチェックしてみたい。
旧譜も一枚買ってみた。プログレッシブ・ロックの代表的なグループ、イエスに在籍していたヴォーカリストのジョン・アンダーソンが中心になって結成されたアンダーソン・ブラッフォード・ウェイクマン・ハウが89年にリリースした「閃光」(原題はバンド名そのまま)である。
イエスは1969年にデビュー。70年代初頭にロック史上に残るような仕事をやり遂げ、80年代前半にはポップ色を打ち出して2度目のブレイクを迎える。その後アンダーソンが原点回帰を呼びかけたが、バンド名の権利を保有するベーシストのクリス・スクワイアが応じなかったため、メンバーの名字を並べてグループ名とした。本作は実質的にイエスのアルバムと言って良い。
内容は全盛時を思わせるほどの充実ぶりだ。もちろん70年代とは違ってアレンジは(野性味を抑えた代わりに)洗練され、楽器の音色も煌びやかだが、淡麗なメロディに奥行きのあるハーモニーはまさにイエスのサウンド。特にアンダーソンのハイトーン・ヴォイスとリック・ウェイクマンのキーボードとのコラボレーションは、往年のファンも身を乗り出してしまうほどの存在感だ。お馴染みロジャー・ディーンによるジャケット・デザインも見逃せない。
しかしながら、本作は2008年に他界したオリジナルメンバーであるリック・ライトの追悼盤としての性格を持ち、彼が参加していた前のアルバム向けの未収録セッション(約20時間)を基に構成されているため、純粋な意味でのニュー・アルバムではない。「狂気」や「炎」といった突出した過去の作品とは違い、どちらかといえば「モア」や「雲の影」等の映画のサントラ盤と似たような(ライトな)性格を持っている。
インストゥルメンタル曲中心で、多分にアンビエント的である点がこれまで彼らのナンバーを聴き込んできたリスナーにとって不満の出るところであろうが、これはこれでレベルの高いサウンドだ。プログレッシブ・ロックのスタイルを踏襲しながら、これだけ洗練された音を出せるのは、このバンド以外に存在しない。リック・ライトのキーボードによる蠱惑的な空気感の醸成と、デイヴィッド・ギルモアの天翔けるギター、そしてニック・メイソンのドラムスによる確かなリズム・ラインが織りなす世界は、ピンク・フロイド・サウンドの一つの到達点を垣間見ることができる。
録音はオーディオマニア御用達だった「狂気」や「ザ・ウォール」には及ばないが、凡百のポップス系ディスクとは明らかに次元が違う。たとえプログレッシブ・ロックに興味がない聴き手でも、このアルバムは極上のヒーリング・ミュージックとして受け入れられよう。
プログレッシブ・ロックの全盛期は70年代から80年代初頭であり、現時点ではすでに“終わった”ジャンルだと思っている音楽ファンも少なくないとは思うが、90年代以降もこの世界に参入してくるバンドもけっこう存在している。そのひとつが90年に英国リヴァプールで結成されたアナシマ(Anathema)だ。購入したのは2012年にリリースされた9枚目のアルバム「ウェザー・システム」である。
タイプとしてはスケール感のあるシンフォニック・ロックだが、とにかくメロディ・ラインが美しい。男性と女性のツイン・ヴォーカルの形式を採用しており、その絡みが絶妙だ。マイルドな展開でBGM的に聴き流せる面もあるが、時折パワフルでキレの良いフレーズも現れ、飽きることがない。録音もロック系としては満足できるレベルには達している。
聞けばこのバンドは、デビュー当時にはゴシック・メタルにカテゴライズされるようなスタイルを持っていたという。どのような経緯で今のプログレッシブ路線に転じたのか分からないが、現時点でこれだけのパフォーマンスを見せてくれるのだから、その進路変更は成功したと言っていいだろう。本作に続くアルバムも出ているようで、機会があればチェックしてみたい。
旧譜も一枚買ってみた。プログレッシブ・ロックの代表的なグループ、イエスに在籍していたヴォーカリストのジョン・アンダーソンが中心になって結成されたアンダーソン・ブラッフォード・ウェイクマン・ハウが89年にリリースした「閃光」(原題はバンド名そのまま)である。
イエスは1969年にデビュー。70年代初頭にロック史上に残るような仕事をやり遂げ、80年代前半にはポップ色を打ち出して2度目のブレイクを迎える。その後アンダーソンが原点回帰を呼びかけたが、バンド名の権利を保有するベーシストのクリス・スクワイアが応じなかったため、メンバーの名字を並べてグループ名とした。本作は実質的にイエスのアルバムと言って良い。
内容は全盛時を思わせるほどの充実ぶりだ。もちろん70年代とは違ってアレンジは(野性味を抑えた代わりに)洗練され、楽器の音色も煌びやかだが、淡麗なメロディに奥行きのあるハーモニーはまさにイエスのサウンド。特にアンダーソンのハイトーン・ヴォイスとリック・ウェイクマンのキーボードとのコラボレーションは、往年のファンも身を乗り出してしまうほどの存在感だ。お馴染みロジャー・ディーンによるジャケット・デザインも見逃せない。