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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ジミー、野を駆ける伝説」

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 (原題:Jimmy's Hall)ケン・ローチ監督作としては、同じく混乱期のアイルランドに題材を得た「麦の穂をゆらす風」(2006年)よりはずっと良い出来だ。主人公を歴史の最前線に立って戦った者ではなく、一般民衆に近い無名の活動家に設定したことで、肩に余計な力が入らなかったのが功を奏していると思う。

 1932年、内戦が終わったアイルランドのリートリム州の田舎町に、土地の借用権をめぐる闘争が原因で長らくアメリカ暮らしを余儀なくされていた元活動家のジミー・グラルトンが戻ってくる。故郷で老母と穏やかに暮らすことを決めていた彼だったが、地元の若者たちは昔オピニオン・リーダーとして地域活性化に励んだジミーを放ってはおかず、再び指導者として先頭に立つことを期待する。

 彼らに推されたジミーは、かつて皆が芸術やスポーツ、ダンスなどを楽しんだホール(集会所)の再建を決意。しかし、神父のシェリダンや地主達はそのことを快く思わない。やがて両者の間に争いが起きる。

 実在の人物であるジミーは決してイデオロギーに凝り固まった“革命の闘士”なんかではない。ホールの建設を通じて人々の世話役になろうとした篤志家である。劇中では頭ごなしのシュプレヒコールの連呼などは存在せず、視点は常に庶民の喜怒哀楽の側にある。この構図は、ローチ監督得意の社会派リアリズムが有効に作用する。元恋人との関係性や、アンビバレンツな立場に置かれる教会側の状況などは丁寧に描かれているし、地元住民のジミーに対する憧憬の念は巧みに掬い取られている。

 また、本作のテーマが現代に通じていることは要チェックである。冒頭のタイトルバックにも示される通り、この映画の筋書きには1929年に起きた世界大恐慌が暗い影を落としていることは言うまでも無いが、そんな逆境にあっても主人公は“希望を捨てず、抑圧にも負けず、世の中のために誠実に働こう”と訴える。このメッセージは、我々が直面するリーマン・ショック以後の不安定な世界に通用する。

 ジミーの理想は若い世代に引き継がれ、やがて結実してゆくことを暗示する終盤の盛り上がりは素晴らしい。主演のバリー・ウォードやヒロイン役のシモーヌ・カービーをはじめキャストが馴染みの無い者ばかりなのはローチ監督作では珍しくないが、いずれも良い仕事をしている。ロビー・ライアンのカメラによる、美しいアイルランドの田園風景。ジョージ・フェントンの流麗な音楽も印象に残る。

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