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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「満月」

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 91年作品。前にも書いたことがあるが、90年代前半は日本映画界が絶不調に陥った時期である。80年代に邦画ニューウェイヴだ何だと持て囃された若手監督陣が息切れし、それを引き継ぐ人材も出てこない状態で、業界全体にシラケたムードが漂っていた(注:これはあくまで個人的な感想だ。そうは思っていない者もいるだろう)。本作もそれを代表するかのような、冴えないシャシンである。

 秘密の任務で蝦夷(北海道)に潜入した津軽藩の武士が、300年後の現代にタイムスリップして、高校の女教師と愛し合うというファンタジー編だ。何でも原田康子による原作は、何人もの監督が映画化を望んだという。たぶん小説版は、夢と希望が詰まったような読み応えのあるものだったのだろう(私は未読)。



 しかしながらこの映画には、ファンタジー映画に不可欠であるはずの魅力的なキャラクターが見当たらず、ストーリーにいたっては説得力はおろか、阿呆臭い大仰なウソが放置されており、観ていて何の感動もない。図式的な恋愛劇をベースに、マスコミ批判だの環境問題だの、果ては江戸時代の殿様の美談だのが脈絡も無く羅列され、骨太なドラマツルギーなんぞ望むべくもなく、退屈なラストまで締まりの無い話がダラダラと続く。

 だいたい、当初は侍を嫌っていたヒロインが、理由も示されずにいつの間にか彼と恋仲になるというのだから脱力してしまう。

 監督は大森一樹だが、デビュー当時に持っていた才気は失われ、凡庸な展開に終始。主演の時任三郎、相手役の原田知世、いずれも全く生彩が無い。特に原田は10代のころに出演した作品の中での存在感が20代半ばになった当時はすべて失われ、ただのガサツで下手なチンピラ女優に成り下がっていたのには失望したものだ。彼女が再び魅力を発揮するのは中年になってからで、今さらながら俳優の“旬の時期”について考えてしまう。

 なお、タイトルが示すとおり終盤には追われた2人がロープにぶら下がって満月の下を横切るシーンがある。クライマックスのつもりだろうが、随分と幼稚で腑抜けた描写だ。この程度の場面を映画のセールスポイントにせざるを得なかったとは、この頃の邦画興行の状況は推して知るべしである。

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