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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「黒い画集 あるサラリーマンの証言」

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 昭和35年東宝作品。松本清張の小説の映画化ではよく知られているもので、今回私は福岡市総合図書館にある映像ホール“シネラ”での特集上映にて観ることが出来た。評判通り面白く、最後まで楽しませてくれる。なお、その年のキネマ旬報ベストテンでは2位にランクインしている。

 主人公の石野貞一郎は丸の内にある大手繊維会社の課長。大森に一戸建ての家を買い、家族4人で不自由ない暮らしをしている。だが、彼はこっそりと部下の若いOLと浮気しており、彼女を西大久保のアパートに住まわせていた。その夜も石野は勤務終了後に愛人のアパートに寄るが、帰り際に自宅近所の住民で保険の外交員である杉山と突然出くわし、思わず挨拶を交わしてしまう。その日は妻子に渋谷で洋画の2本立てを観て遅くなったと言い訳するが、2週間後、彼は警察からの事情聴取を受ける。

 何と杉山は向島で起こった殺人事件の容疑者になっていて、杉山は“犯行のあった晩は別の場所で石野と会った。濡れ衣だ”と供述しているというのだ。事実を証言すれば浮気がバレて出世にも響く。こうして彼は“その時間には渋谷で映画を観ていた”というウソの証言をするハメになるのだが、そんな折に別の殺人事件が起こり、今度は石野が刑事から疑われるようになる。

 とにかく、小林桂樹扮する小市民的中年サラリーマンの造形が絶品だ。社会的な立場があるにも関わらず、マジメな顔をして裏でコソコソとよからぬことをやっているあたり、むっつりスケベの典型例を見るようで実に面白い(爆)。そんな彼が思わぬトラブルに巻き込まれ、保身のために虚偽の証言をしたことにより、坂道を転がり落ちるように今まで積み上げてきたものを失っていく過程は、一種のスペクタクルだ。

 堀川弘通の演出は堅牢で、一点のブレもなくストーリーを綴ってゆく。中でも主人公が原知佐子演じる愛人に、職場内の電話越しに別れを告げるシークエンスは印象深い。上映時間を1時間半にまとめているのも的確だ。脚色は橋本忍が担当しており、松本清張によるプロットの積み上げを映像として違和感の無いように転写する名人芸には唸るばかりである。

 織田政雄扮する杉山のショボクレぶりは絶品だし、この頃からオバサン顔だった(失礼 ^^;)菅井きんの熱演も光る。また、製作元が東宝であるせいか、主人公の家庭生活や愛人と男友達との絡みが(東映や松竹とは違い)明るくスマートに描かれているのは興味深い。池野成によるセンスのいい音楽も含めて、これは広く奨められる良質のサスペンス劇だと言えよう。

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