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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「フューリー」

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 (原題:FURY)スピルバーグ監督の「プライベート・ライアン」の二番煎じで、しかも出来は遠く及ばない。そうなった原因のひとつは、主演のブラッド・ピットが製作も手掛けていたからだろう。以前彼がプロデュースに参画した「それでも夜は明ける」の中で、いかにもカッコつけたような“いい人”の役で出演していたのと同様に、この作品はブラピの“俺様映画”としての側面が大きい。

 1945年4月、ベルリンに向かって侵攻するアメリカ陸軍部隊の中に、ドン・“ウォーダディー”・コリアーが車長を務めるM4シャーマン戦車があった。自ら“フューリー”と命名したこの戦車で何度も修羅場をくぐってきた彼だが、副操縦士の死亡に伴い、代わりに新兵で戦闘経験の無いノーマンを加入せざるを得なくなる。そんな中、ドイツ機甲師団の攻撃を受けて他部隊がほぼ全滅してしまう。なんとか生き残ったウォーダディー達だが、たった一台で敵軍と対峙することになり、彼らは決死の覚悟で戦いに臨む。

 最大の敗因は、主人公のバックグラウンドがほとんど描かれていないことだ。厳しい姿勢で戦地に赴くのは軍人だから当然としても、敵に対するスタンスや任務遂行の段取りなどがどうもチグハグである。これでよく幾度も死地を乗り越えられたものだ。

 ドイツ軍には容赦しないくせに(投降してきても射殺)、偶然出会った現地の女達には場違いなほど“優しく”接する。相手がゲリラ兵である可能性もあると思うのだが、どうも御都合主義的に振る舞い方を変えるタイプのようだ(呆)。言うまでもなくブラピ先生の“カッコつけ”のために挿入されたシークエンスだが、この箇所だけが劇中で完全に浮いているのは如何ともし難い。

 終盤のバトルに至っては、まるでお笑いぐさだ。たかが戦車一台に約300人ものドイツ兵が手こずるはずもないだろう。それ以前にウォーダディーは一度撤退して体勢を立て直すべきだったが、やっぱり“カッコつけ”が大好きなブラピ御大は、玉砕覚悟の無謀な戦いを選択してしまう。

 そんな有様だから、派手なドンパチが画面上で展開しても観ているこちらはシラけてしまうのだ。ラストの空撮は十字架をイメージしていることは明らかだが、そんな具合に戦争の悲惨さを(御為ごかし程度に)挿入しても、証文の出し遅れだろう。

 デイヴィッド・エアーの演出はキレもコクもなく、ノーマンに扮するシャイア・ラブーフをはじめキャストは弱体気味。ウォーダディー配下の面々よりも、ノーマンと仲良くなる女の子を演じたアリシア・フォン・リットベルクの方が印象に残ってしまうのだから脱力してしまう。観る前は期待した戦車同士の戦いもほんの一部しかなく、評価出来る箇所を探すのが難しい失敗作と言ってよかろう。

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