(原題:Girl with a Pearl Earring )2003年イギリス作品。17世紀のオランダを舞台に、フェルメールの名画「真珠の耳飾りの少女」が描かれた背景を、モデルとなった少女と作者との関係から描こうとした作品。監督ピーター・ウェーバーがテレビ界出身(これがデビュー作)であるためか、ドラマ自体に深みがない。
1665年のオランダ。事故に遭って働けなくなった父親に代わって家計を支えることになった少女グリートは、画家のヨハネス・フェルメールの家に使用人として住み込むことなる。来る日も来る日も辛い労働に追われる彼女だが、ひょんなことからフェルメールの助手として絵の具を調合するという仕事を任される。いつしか心を通わせるようになる二人だが、フェルメールの妻は嫉妬し、パトロンはよからぬ策略をめぐらせる。そんな中で、フェルメールはグリートをモデルに絵を描く。
この映画では画家のカリスマ的な存在感も、モデルとの間に流れるはずの匂い立つ官能も、そして作者が持つ“芸術の真髄”についての見解も、まったく描かれていない。単に“作者が史実だと思っている筋書き”が漫然と流れてゆくだけだ。1時間40分程度の作品であるが、非常に長く感じられた。
しかし、撮影監督エドゥアルド・セラと美術担当ベン・ヴァン・オズの仕事ぶりは見ものである。フェルメールの筆致をそのままスクリーン上に再現したかのような柔らかい光と影のコラボレーション。ひとつひとつのカットが絵画として通用するほど映像の密度は濃い。どちらかといえば、映画館で観るよりはDLP搭載の高級AVシステムのチェック用にブルーレイを家庭で楽しむべき作品かもしれない。
フェルメール役のコリン・ファースは可もなく不可も無しだが、ヒロインに扮するスカーレット・ヨハンソンの頑張りが印象的。当時は十代だったが、北欧系らしい肌の白さときめ細やかさ。そして愁いを帯びた表情は、本作のようなヨーロッパ製の時代物にはよく合っていた。ハリウッド女優然とした今の雰囲気とはまるで異なっているのが面白い。