(原題:Tjorven, Batsman och Moses)随分とレトロな作りだと思ったら、1964年製作の映画だった。どうして今頃公開するのか分からない。しかも、丁寧に作られているとはいえ、内容は完全に子供向け。ミニシアターでやるようなシャシンではないだろう。セリフを日本語吹き替えにして、子供相手に市民ホール等で上映するのにふさわしい。
主人公チョルベン(マリア・ヨハンソン)は、スウェーデンのウミガラス島で暮らす御転婆な女の子。相棒はセントバーナード犬の“水夫さん”だ。ある日彼女は、漁師のヴェステルマンから網に掛かった一頭のアザラシの赤ちゃんを譲り受ける。チョルベンはそのアザラシをモーセと名付け、友達のスティーナ(クリスティーナ・イェムトマルク)やペッレ(ステファン・リンドホルム)と一緒に飼い始める。
ところが、モーセが研究機関に高く売れることを知ったヴェステルマンは、チョルベンからモーセを取り返そうと、子供達と争奪戦を繰り広げる。さらに、島では家畜が襲われる事件が頻発。犯人は“水夫さん”ではないかという噂が立ち、チョルベンは愛犬を失う危機に直面する。「長くつ下のピッピ」等で知られるスウェーデンの児童文学作家、アストリッド・リンドグレーンの「わたしたちの島で」の映画化である。
チョルベンは丸々と太っていて、スティーナも歯が欠けている上に悪態ばかりつく女の子だ。しかし、とても可愛く撮れている。犬の“水夫さん”やモーセだけではなく、カラスやウサギなど動物がたくさん出てくるが、どれも愛嬌満点だ。監督のオッレ・ヘルボムはよっぽど子供や動物が好きなのだろう。
興味深かったのがモーセの生態。アザラシがあんな風に鳴くなんて初めて知ったし、水中と違って陸上では動きが鈍くなるという先入観を覆すように、かなり精力的に動き回る。
児童映画なので、捻った筋書きやシビアな描写は皆無。ラストはすべてが丸く収まる。とはいえ、大のオトナがマジメに対峙するような作品でもないだろう。安くは無い入場料を払ってまで観る映画なのかというと、疑問が残る。あと魅力的だったのが、北欧の美しい白夜の描写。ベルイマン監督の「ファニーとアレキサンデル」でも神秘的に扱われていたが、白夜は北欧映画にとっての絶好の“小道具”であることを再確認した。