これは良い映画だ。元々はテレビのドキュメンタリーなのだが、素材に対する粘り強い取り組みが可能になったのはテレビの特性によるところが大きい。そして、それを映画にしてまとめ上げた作者の真摯な姿勢と手腕に感心する。いわばテレビと映画のメディアとしての長所をミックスさせた佳編と言えるだろう。
1987年、新潟県の雪深い村にある全校生徒9人の小学校に、この年は新一年生が入ってこなかった。寂しい思いをしている子供達のために、学校側はクラスメートの代わりに3頭の子牛を“入学”させ、皆で育てることにしたのだ。丁寧な飼育の甲斐あって3頭はスクスクと大きくなるが、中心になって世話をしていた当時3年生の和美は、将来は大型家畜専門の獣医になろうと決意する。両親は“そんな大変な仕事は女の手に負えるものではない”と反対するが、彼女の意志は固かった。そしてカメラは、獣医の夢をかなえようと奮闘努力する彼女の姿を、何と26年間も追い続けるのだ。
最初はテレビ新潟が取り上げたローカルニュースの一つでしかなかった。それが人一倍熱心に取り組んでいた彼女がクローズアップされ、思いがけない“超長編ドラマ”が出来上がってしまう。製作スタッフの目の付け所が良かったのは言うまでもないが、そんなフレキシブルな対応ができたのも、小回りの利くテレビ局(しかも地方局)ならではの特徴であろう。
彼女を見ていると、月並みな表現ながら“夢を追う”ことの大切さを痛感する。家族を説得し、自分の目標に向かって着実に歩んでいく。そこには何の迷いも無い。勉強漬けだった高校生活を経て、難関校に合格。獣医の資格を得て地元に戻り、広いエリアで家畜の世話をする職務に就く。やがて結婚して家庭を持つと共に、今では地域になくてはならない人材に成長する。早くから自分の使命を知って精進するということは、これほどまでに人を輝かせるものなのだ。
また、彼女を支える親兄弟・祖母の佇まいも実に美しい。実家も牛を飼っているが、その他にも犬や猫、ウサギやモルモットなどが家や敷地の中を自在に動き回る。皆動物好きで、優しい心根を持っている。家庭環境の描写を丹念に掬い上げたからこそ、ヒロインのような生き方も納得出来るものがある。
テレビ新潟の社員でもある時田美昭の演出はケレン味を抑えて対象を自然体に撮ろうという姿勢が窺われ、好感が持てる。また、2004年の中越地震の際に被災地に取り残された牛を救うシーンもあり、これがなかなかのスペクタクルで作劇の良いアクセントになっている。
本宮宏美の音楽、エンディングテーマである荒井由実の「卒業写真」(歌っているのは地元シンガーのUru)、AKB48の横山由依によるナレーション、いずれも良好だ。幅広い層に奨められるドキュメンタリー映画である。