(原題:John Q)2002年作品。ヌルい映画である。要するに“アメリカの医療保険はロクなもんじゃねぇ!”ということを言いたいだけ。何でも米国では約五千万人もの国民が医療保険に加入できず、たとえ入れたとしても一般ピープルは貧弱な内容に甘んじなければならないとか。そりゃあ確かに大変だろう。でも、だからといって銃を手に病院を占拠していいという理由はない。
シカゴに住む平凡な中年男ジョンQの息子が、突然として心臓発作を起こし昏睡状態に陥る。医者の話によれば、心臓移植しか助かる道はないという。しかし、適応されるはずの保険が利かない。父親の勤める会社が、合理化施策により彼をパート職に配転した際、勝手に保険ランクを下げていたのだ。しかも、両親ともに健在で職があるため国からの補助も受けられない。切羽詰まったジョンは、医師や看護婦、患者らを人質に取り病院に立てこもり、息子の心臓手術を要求する。
身も蓋も無い話をすれば、アメリカ流の“自己責任の原則”では、悪いのは保険の内容をチェックしていない本人であるはずだ。だいたい当時は景気が日本ほど悪くなかった米国で通常勤務の職も得られない主人公は、甲斐性がないのである。それをあたかも“社会が悪い。本人は悪くない”といった責任転嫁を正当化しているようなこの映画のスタンスは断じて認めない。
主人公の境遇に野次馬やマスコミが勝手に“共感”してしまう図式も願い下げ(シドー・ルメット監督「狼たちの午後」の足元にも及ばない)。さらに、御都合主義的なラスト近くの展開には泣けてきた。
監督はニック・カサヴェテスだが、精彩を欠いた仕事ぶりだ。主演のデンゼル・ワシントンをはじめジェームズ・ウッズやロバート・デュヴァル、アン・ヘッシュ、レイ・リオッタといったキャストは熱演しているが、映画の設定自体がズンドコなので完全に上滑り。どうでも良いシャシンである。