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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「愛について、ある土曜日の面会室」

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 (原題:QU'UN SEUL TIENNE ET LES AUTRES SUIVRONT)。三つのストーリーが平行して描かれているが、残念ながら真に見応えのあるパートは一つだけ。あと一つは一長一短。残る一つは話にならない。結果“一勝一敗一引き分け”(謎 ^^;)でトータルのポイントでは凡作ということになるが、映画というのはそう簡単に割り切れるものではない(笑)。

 アルジェリアからフランスに渡った若者が、ゲイの相手に殺されてしまう。アルジェの空港で遺体を迎えた母親は、濡れた白い布で遺体を拭き清める。身を切られるようなシーンだが、彼女は悲しみに浸る間もなく、やがて真相を確かめるべくマルセイユの刑務所に出向き、犯人と対面する。



 同性愛者という、親に言えない秘密を持ってしまい、負い目を感じながらもやっと出会った“恋人”と暮らしていた息子。だが、その関係は破局を迎え、痴話ゲンカの末に相手の凶刃に倒れてしまう。母親は犯人と会う前に身分を隠して彼の姉と接触する。姉もまた、加害者の家族として耐えられない苦しみを抱えていた。

 事件を中心に交錯する関係者の苦悩が、刑務所の面会室でぶつかり合う。そして、前に観た「最後の人間」と同じく、フランスとアルジェリアとの容易ならざる関係性をも浮き彫りになり、目覚ましい映画的趣向を呼び込む。

 オートバイ便で細々と小銭を稼いでいる男が、たまたま服役中の男と瓜二つだったことから、面会時に“入れ替わり”を要求されるエピソードは、プロット面で弱い。二人がそっくりだというのは御都合主義の最たる物であり、百歩譲ってそれを認めるにしても、勝手に入れ替わったら刑務官にスグに見破られてしまうだろう。



 だが、この男の鬱屈した日常の描写は上手い。甲斐性の無い、典型的なダメ男。そんな彼が、ほとんど打ち棄てられたプライドを拾い上げて無謀なバクチに挑む。その姿は滑稽であると同時に、観る者の琴線に触れるようなピュアな部分を併せ持っている。

 不良少年と付き合っていた少女が妊娠してしまい、しかも相手は塀の中。そんなヤクザな若造と何とか面会しようとする少女を描くパートはつまらない。各キャラクターがまるで練り上げ不足。ラストの処理も釈然としない。

 終わってみれば、アルジェリアに住む被害者の母親を描くエピソードだけでOKだとの印象を受ける。このパートが屹立しているので、あとの二つの低調な出来映えを何とかカバーしていたと、そういう結果だ。監督のレア・フェネールは撮影当時20代の若手。映画自体は食い足りない部分も多いが、人物描写には非凡なものを感じる。今後とも作品をチェックしていきたい人材だ。

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