(原題:Transcendence )つまらない。ストーリーは練られていないし、キャラクターは魅力が無い。映像面でも見るべきものは存在せず。要するに、何のために作ったのか分からない映画である。
天才的な頭脳を持つ科学者ウィルは、意志を持つ人工知能の開発に勤しんでいたが、急激なテクノロジーの発展を危険視する過激派組織によって銃撃される。研究パートナーでもある妻のエヴリンは、死ぬ寸前の彼の頭脳を大型コンピューターのメモリーにアップロードさせ、ウィルの意識を永久保存しようとする。
ウィルの人格を持つに至ったそのコンピューターはネット上からすべての情報を吸収し、思わぬ“進化”を遂げる。やがてコンピューターは自身が理想と考える世界を構築するため、人間界を支配しようとする。この事態に危機感を抱いた当局側は、くだんのテロリスト達とも協力してコンピューターと対決する。
研究バカで周囲の情勢を顧みないウィルにはとても感情移入出来ないが、そんな彼に首ったけの妻が安易に夫の“頭の中の情報”を電脳空間に残そうと考え、しかもホイホイとネットに繋げてしまうあたりで脱力した。危機管理も常識も持ち合わせていない彼女の行動を“愛する人の命を繋ぎとめたい”とかいうセンチメンタルな動機付けで正当化しているような本作の作劇は、とても納得できるものではない。
しかもこのコンピューターの遣り口というのが、あまり頭が良さそうには見えない。なぜか荒野の真っ直中に拠点を築くのだが、そんなことをすれば電脳化されていない“旧兵器”の攻撃の絶好の的になってしまう(事実、そうなるのだが ^^;)。ネットを制圧してしまえば、攻撃を受けにくい場所(たとえば、政府機関の中枢とか)をアジトにすることも可能なはずだが、それをやらないからナノテクノロジーやら何やらに関する無理筋のプロットを積み上げなければならない。
当局側は暴走コンピューターに対抗するためウイルスの使用に踏み切るのだが、その“感染”させる方法というのがまさに噴飯もの。いくら相手が“意志”を持った機械だといっても、コンピューター・ウイルスと単なる病原体とを同一視したような展開には呆れるばかりだ。
これがデビュー作になるウォーリー・フィスターの演出はぎこちなく、テンポも悪い。作劇にキレもコクも無く、メリハリを付けることもしていない。SFXの出来は平板で、観客を驚かせるような映像は最後まで見られない。演技指導もへったくれも無いので、ジョニー・デップやモーガン・フリーマン、レベッカ・ホールといった面々も手持ち無沙汰でスクリーンの中に佇むばかりだ。
キャストで唯一印象に残ったのはテロリストの一人を演じるケイト・マーラで、顔立ちと名字から“ひょっとしたら”と思って検索してみると、ルーニー・マーラの姉だった。妹よりもキツいルックスで(笑)、悪女役が似合いそうだ。