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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「トカレフ」

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 94年作品。阪本順治監督の初期の代表作で、間違いなく彼のフィルモグラフィの中で上位にランクされる作品。熱気をはらんだサスペンス劇であると同時に、優れたホラー映画でもある。破滅に向かって疾走する登場人物達の常軌を逸した行動は、観る者を慄然とさせずにはおかない。

 幼稚園の送迎バスの運転手の道夫は、妻と幼い息子と共に平穏な生活を営んでいた。ところがある日、バイクに乗り拳銃で武装した覆面の男に息子を誘拐されてしまう。犯人は警察の監視をかいくぐり、身代金を手に入れる。さらには息子は殺され、同時に夫婦仲も破綻。仕事を辞めて孤独と懊悩の中に身を置く道夫は、かつての息子のビデオを見ているうちに、ある男が頻繁に背景に映り込んでいることに気付く。それは近所に住む松村だった。



 アテにならない警察を見限り、独自に松村にアプローチする道夫だが、松村はそんな道夫に向かって隠し持っていた拳銃の引き金を引く。一年後、奇跡的に回復した道夫は復讐のために松村の行方を懸命に追う。

 どこにでもあるような新興住宅地の生活の中に潜む、とてつもない悪意にまず度肝を抜かれる。単なる“日常生活の裏に存在する恐怖”などといった週刊誌記事の見出しみたいな薄っぺらいものではない。アイデンティティを抹消されたような、無機質な街並みの中でこそ生まれるテロリズム的な憎悪が、熟成されてやがて暴発する過程をこれほどリアルに描いた作品はそうないだろう。

 劇中で最も衝撃的なシーンは、道夫が一人悶々としている間、かつての妻はなんと松村と結婚し、幸せそうな表情を見せている場面だ。人間に対する信頼や真っ当な道徳律などがまるで絵空事であることを如実に示した、まさに悪夢的なモチーフである。道夫と松村との対決、そして松村が最後に口にするセリフは、時あたかもバブルが崩壊しゼロ成長の鬱屈した世相に移行する様子を照射するかのような、重くて苦いものを感じてしまう。

 道夫を演じる大和武士はマッチョな風体と身体能力を封印したように、ここでは小市民を演じて絶品。対する松村役の佐藤浩市も怪演で、これ以降は敵役が板に付いてくる。阪本監督の演出には淀みが無く、フィルムがぶち切れたようなラストまで、目を離すことが出来ない。公開時は小規模だったが、もっと注目されて良い映画である。

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