(原題:WYATTE ARP)94年作品。全然面白くない。ご存知“OK牧場の決闘事件”を扱った映画は「荒野の決闘」(46年)はじめ多数作られているが、今回は中心人物のワイアット・アープの伝記として仕上げられているのが目新しい。冒頭、ワイオミングの果てしない大地をシネスコの画面でとらえたショットは素晴らしい。少年の頃のワイアットと厳格な父親(ジーン・ハックマン)や南北戦争から帰還した兄たちとの触れ合いを描く導入部分は、大河ドラマの序章としては的確で、それからの展開に期待を持たせる。
“血は水よりも濃い。他人は他人でしかない”“法は正義であり、それを破る者は容赦なく殺せ”というこの保守的かつ高圧的な父親の主張が、民衆を守る保安官という立場に微妙に影響して、ディレンマに悩むワイアットを描くとともに、何が正義で何が法かといった今日的なテーマを盛り込んでドラマティックに展開していくのだろうと思った。
しかし、期待は裏切られる。最初の妻と死別したワイアットは、偏狭で自分勝手な野郎となる。保安官である自分の側近はすべて身内でかため、長年付き合った娼婦あがりの女をいとも簡単に捨てる。クラントン一家との抗争も実は住民にとってはどうでもよく、単にメンツをかけての意地の張り合いに終始する。
ちっともワクワクしない“OK牧場の決闘”。やたら暗い撃ち合いの場面(アクション場面の段取りの悪さは目を覆うばかり)。無法者が釈放される法秩序の矛盾。身内以外は冷遇する主人公のエゴイズム。勝手に言い伝えられる、“ワイアット伝説”のウソ臭さ。やはりこれも「許されざる者」以後のウエスタンらしい。ただ、問題は作品自体の焦点がボケまくっている点である。雰囲気だけで全然主題が浮き上がってこない。
監督はローレンス・カスダンだが、薄っぺらな愚作「シルバラード」(85年)を見てもわかる通り、この人の西部劇は中身がない。いくつかのテーマを散らつかせながらも、少しも観客に迫って来ないのは明かな力量不足。
加えてケヴィン・コスナーという、その頃の大人気スター兼超大根役者を主演に据えているため、いったいこの主人公は何だったのかいよいよわからない(どうでもいいけど、G・ハックマンを除いて、西部劇らしいツラ構えをした俳優は一人もいない)。いつもの優柔不断を通り越して、これじゃ単なるバカではないか。少しは自分のキャラクターを観客にわからせる努力をしてみろと言いたい。デニス・クェード扮するドク・ホリデイも何しに出てきたのかわからない。
そしてこれがなんとアナタ、上映時間が3時間11分だ。観終わって、くだらない映画に貴重な時間を取られた不快感だけが残った。観る価値なし。