児童映画だが、そこは石井克人監督、しっかりと作家性を打ち出している。特に各キャラクターの濃さには感心。笑わせてシンミリさせて、最後にはホノボノとした気分に浸れる佳作だ。
千葉県の田舎町に住む小学生の純一は、性格は内気ながら個性豊かな仲間たちに囲まれ、けっこう楽しい学校生活を送っている。そんなある日、彼らのクラスに教育実習生のアンナ先生がやって来る。派手な髪型にミニスカート、ピンヒールという場違いな格好で授業中も無駄話ばかり。しかも校舎の裏では煙草まで吹かす彼女に呆気にとられる純一たちだが、どこか憎めないキャラクターのアンナ先生に次第に懐いていく。
一方、仲間の一人である倉本の父親はギャンブル狂いで家計は火の車。母親は何とか内職で食いつないでいるが、それも限界が近い。母親の誕生日に彼女を励まそうと、純一たちはあるイベントを決行するべく立ちあがる。
冒頭、純一とその仲間たちが川辺で言い合いをする場面が描かれるが、クローズアップとロングショットを交互に切り替え、臨場感を出しているのは面白い。子供たちの自然体の演技も合わせて、子供向けの説明過多なドラマツルギーを廃している点は好感が持てる。
純一は優等生女子の前田さんに片思い中で、彼女から借りた消しゴムを返すタイミングを掴めないまま悶々とする中、その消しゴムをアンナ先生に取られてしまうが、このサブ・プロットが最後まで活きている。そして純一の仲間である町田は大人に混じって役者の仕事をしており、やたらマセているのには笑わせてくれるが、イベントの当日に彼のCM録りがバッティングしてしまい、どう折り合いを付けるのかも興味深い。
アンナ先生の元カレに関するエピソードも含め、イベントを実行するプロセスは型どおりで目新しさは無い分、こういった脇の話の面白さでストーリーを引っ張っていこうとするのは、悪くない手法である。
子供たちは性格がハッキリと描き分けられているが、大人のキャストも万全だ。アンナ先生を演じるのは満島ひかりで、前作「夏の終り」とは打って変わったギャル系の出で立ちながら、かなり可愛く撮られている。担任のアチキタ先生に扮する森下能幸は、型破りな怪演で盛り上げてくれる。
純一の祖父を演じているのが石井監督作ではお馴染みの我修院達也(若人あきら)で、今回の“変態度(?)”はそれほどでもないが、やっぱり一筋縄ではいかないクセ者ぶりを見せる。個人的には純一が家の前で良く出くわす、自転車に乗った黒人と若い女の二人連れ(マンスール&牧野愛)が妙に印象に残った(笑)。全登場人物が踊るエンドタイトルも楽しいが、エンディングテーマを歌っているのは満島自身で、金子修介監督の「プライド」以来の歌唱力を披露している。